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勃ち上がれ! My Prince Patient
【女性向け 官能小説】

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イルミネーションに舞う-1

 「今日はクリスマス・イヴよ?誘う相手間違ってない?」
 「相手って?」
 「例えば、だけど…蘭火さん。」
 「ああ、蘭火とはもう夕べ済ませたから。」
 す、済ませた…。
 ほんの一週間前が初めてだったくせに、もうそんなライトな感じになっちゃってるのか。
 「へー、そうなんだ。だとしても、なんで私を誘ったの?ド本番のクリスマス・イヴに、しかもこんな…」
 いつか二人で来た公園。蘭火さんに初めて会った場所。
 「ギュウギュウの人混みに来なくてもいいじゃない。」
 頭上には大量のLEDをちりばめたアーチ型のイルミネーションが輝いている。毎年この時期にこの公園を中心に行われているイヴェントで、二十年以上前から続いている。地元の市民はもちろん、国内外から大勢の人々がやってくるし、TVカメラも必ず入る程のメジャーな催しだ。イタリアから呼び寄せた職人さんたちが設営してくれる、本格的なものだ。
 「確かに素敵な場所ではあるんだけど。」
 イルミネーションに照らされた雪が、色とりどりに輝きながらフワフワと舞い降りてくる。それはけして少ない量ではないのだが、全く積もっていない。あまりにも人が密集しすぎているために地面まで落ちる前に誰かにぶつかり、熱気で溶けてしまうからだ。
 「今日、ここじゃないとダメなんだ。」
 「なんでよ。」
 「な、なんでって…言われても…。」
 なんだかモジモジし始めた。こういう時の清志は何か企んでる。そして、企んでおきながらビビりが入ってる。
 「清志、私にできる事ならするよ?遠慮しないで言ってよ。」
 「あ、うん…。」
 清志は手に提げていた茶色いA4ぐらいの紙袋から、畳んだ布をガサゴソと引っ張り出した。周囲の人とゴンゴンぶつかり合いながら。
 「諒子、これを着てくれ。」
 手渡されたものを広げた。いや、広げる隙間など無いから、なんとなくほどいた。
 「Tシャツ?」
 彼は神妙な面持ちで頷いた。
 「ここで?」
 頷いた。
 「無理。」
 泣きそうな顔になった。
 「もうちょっと広い所へ出ようよ。」
 はぐれないようにしっかりと手を繋ぎ合って、公園の横の歩道に出た。
 『立ち止まらないで下さーい。』
 警備のオジサンにメガホンで怒られた。
 「もうちょっとあっち。海の方まで行こうよ。この時期ならいつもより空いてると思う。」
 「いや、僕はここが…」
 「いいから。」
 手を引いて歩いた。
 公園から離れるほど、目に見えて人通りが減っていった。やがて喧騒は止み、まばらな車の走行音しか聞こえなくなった。ここまで来ると潮の香りがはっきりと分かる。
 「へえ、こっちにも素敵な芝生の公園があるんだね。」
 「お兄さん、こういうとこ、初めて?」
 「なにそれ。」
 「なんでもないわ。」
 緩いカーブを描く通路を、積りたての雪をサクサクと踏みながら進み、岸壁の近くまで行った。
 暗い海の遠くに、山型に並んだ灯りが浮かんでいるのがいくつか見える。
 「船?」
 「そう、観光クルーズ船。ライブを聴きながら食事をしたり海を眺めたり。なかなか素敵よ。乗ってみるといいわ、蘭火さん誘って。」
 「乗ろう!」
 「い、今?」
 「うん!」
 「チケット売り切れてると思うよ。」
 「え、そんなに人気なんだ。」
 「人気もだけど、今日は何の日?」
 清志は急に黙った。
 「…クリスマス・イヴ、だよ?清志。」
 「そう。そうだね。」
 じっと見つめられた。
 「…なによ?」
 スー、ハー、っと深呼吸をした清志が、私の両肩に手を乗せた。
 「諒子、そのシャツを着てくれ。」
 「無理だって。人混みじゃなくなったけど、外で生着替えしろって言うの?」
 「いや、そういう意味じゃ…ないんだけど。」
 そう言って彼はMA−1フライトジャケットのファスナーを下げ、胸元を開いた。
 「見て。」
 「…いつも通りの、よく分からない模様のシャツ…あ、同じ?」
 「そう。」
 「それって、ペアルックしてくれってこと?」
 「う、うん。」
 私はもう一度彼の胸と手元のTシャツを見比べた。
 「何で私と?そして何でこのシャツなの?」
 清志は海の方へ視線を逸らした。私もつられて同じ方角を見た。
 少し離れた所にある巨大な観覧車が、海面に光の波を浮かばせている。それは観覧車の側面の何色ものLEDによって映し出されていく、アニメーションをするクリスマスツリーやサンタが反射したものだ。
 「…そのシャツを着れるのは、僕と諒子のふたりっきりなんだ。世界に二枚しかない。」
 「へえ、レアものなんだね。そのうちの一枚をくれるの?」
 彼は海を向いたままで頷いた。
 「なぜ二枚しかないのか。それは…」
 「そういえばさ、売ってないけど自分は着れる、とか言ってたよね、このシリーズ。」
 「その通り。だって、僕がデザインしたものだから。」
 「え…。」
 「僕がデザインして友達の実家の衣料品工場でプリントしてもらってるんだ。」
 「あ、っそうか、美大生だったね。」
 「うん。」
 なるほど。それで売ってないんだ。あ…。
 「…ごめん。」
 「なに?」
 「私、よく分からないデザイン、とかさんざん言っちゃったね。」
 「いいんだ。それで正解だから。」
 「正解?」
 「絵なんてね、描き手の想いをピュアに込めれば込めるほど、他人には理解不能になっていくんだよ。」
 「…なんとなく、だけど分かる気がする。芸術って、理解するものじゃなく、感じるものなんじゃないのかな。説明されないと感動しないものなんて、芸術じゃないと思う。」
 清志は笑顔を広げながら私の方を振り向いた。
 「さすがだね、諒子。だからこそ僕はこのシャツを君に着てほしいんだ。」
 清志は私が持っているシャツを、私は彼の胸を見つめた。


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