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勃ち上がれ! My Prince Patient
【女性向け 官能小説】

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眠れる魔獣-1

 「はい、お大事に。」
 祖父が開いた泌尿器科医院の私は三代目。もっと華やかな?科がいろいろあるのに、よりによって泌尿器科。世の中に必要なものであるのは分かるけど、患者の大半がおしゃべりとセクハラに来る爺さんやオジサンともなれば、愚痴の一つも言いたくなるというものだ。
 「いやあ、ありがとう先生。どんどん良くなってる気がするよ。ここに通い始めてからなんだか気分も明るくなってきてねえ、このまえ妹に会ったんだけど、兄さん、この頃なんだか楽しそうよ、なんてね、その妹の旦那さんってのがこれがまた妹にはもったいないようないい男でねえ、こんど一緒に旅行しようなんて言ってるんですよ、どこがいいかなあ、って話してたらなかなか意見が合わなくて、その時やってたテレビがね、ほら、例の不倫とかいうやつで、昔は浮気って言ってたのにねえ、浮気って言うと軽い感じがするけど、不倫って、ちょっとどうなのかな、って思うんだよ、先生、僕と不倫どうですか?ムリか、ムリだよねえ、先生綺麗だから、モテるんだろうなあ、どうして世の中にはモテる人とモテない人がいるんだろうねえ、僕はどっちだと思います、先生、どっちでもいいや、人生あとどのくらいあるのかなあ、僕が生まれた家の庭に咲いてた桜の…」
 「お会計しますからねーこちらへどうぞー。」
 祖父の代からお世話になっているベテランの看護師さんがいつものように助けてくれた。
 「それがさあ、看護婦さん。弟が去年死んだんだけどね、その義理の姉の隣の家には犬が12匹…」
 待合に戻ってもまだやってる。やれやれ、だ。
 彼の病名は前立腺肥大。しかし、彼自身はEDの治療で通院しているつもりだ。83歳。
 「こんにちはー!先生、今日も綺麗だねえ。」
 57のオジサン。
 「なんかねー、コイツの調子がおかしいんですよ、見て下さいよ。いや、診て、か。うはは。」
 「尿検査で問題ありませんから、必要ありませんよ、大丈夫です。」
 「いや、患者自身がおかしいって言ってるんですから。見て下さいよー。」
 ヘンタイ。事あるごとに自分のアレを見せようとする。この前なんか手を掴んで触らされそうになった。何の病気もないのにしょっちゅう来る。そう、私にセクハラしに来る。
 こんなもんよ、開業医の実態なんて。
 あーあ、普通に大学病院でキャリア積んどけばよかったかなあ。
 楽勝で国立大医学部に入学した私は楽勝で卒業。あ、医学部は6年で卒業ね。この時点で一応医師免許は取れる。
 そのあと、前期研修医を2年。これはスーパーローテーションと言って、いろんな科を順繰りに体験していくの。幅広い経験を積むと同時に自分に合った科を見つける期間。
 後期研修医を2年。科を固定して研鑽に励む。あと、救急担当もやる。…正直あまり思い出したくない。慣れることの出来ないことがあるんだと知った。
 入学からここまでで既に10年。でも、まだ一人前の医師じゃない。長い。あまりにも長い道のり。
 普通はそのあと大学病院に残って下働きみたいなことをしながらキャリアを積んで一人前を目指すんだけど…。そのためには医局に所属するのが一般的。医局っていうのは、まあ乱暴な言い方をするなら派閥。
 群れるのがイヤ、とかカッコつけたわけじゃないんだけど、なんかメンドクサかったの。で、雇ってよー、っておじいちゃんに言ったらホントに採用されちゃって。
 …後で知ったんだけど、父は大学病院の先輩に強引に引っ張られて今期から常勤になっちゃったからほぼ医院に出れない。そしておじいちゃんは年齢的にムリ出来ない。つまり、レギュラーで診察出来る者が居ない。
 かくして、研修医終わったばかりの28才の私が、いきなりこの泌尿器科医院の実質的な代表医師に就任。マジか、私。
 大学病院、市民病院などの大きい所はもちろんのこと、町の医院でも二十代の主治医なんて見たことないでしょ?私はそれだけムチャやってるわけ。自他ともに一人前と認められるのは三十台半ばからかなあ、ふつう。
 さて、次の患者さんは…初診か。やれやれ、またセクハラかおしゃべりかクーラーにあたりに来る患者さんが増えたというわけだ。まだまだ残暑厳しい季節だからねえ。…ん?22才?へえ、そんなの来るんだ、ここ。
 私は改めて問診表を見た。

 氏名 菅野清志 すがのきよし
 年齢 22才
 自覚症状 ED

 そうか…。オンナに対して最も関心が高く、同時に最もデリケートな年頃の男の子がこの症状。慎重にいかなきゃ。
 「どうぞ。」
 なるべく朗らかな声を意識して招き入れたのだが、彼は絵に描いたようにキョドりながら診察室に入ってきた。
 「え…。」
 そして私を見て硬直した。
 180センチは楽勝で超えてるかな。筋肉質の体はたぶんスポーツによるもの。だけどマッチョではない。スラリとしなやかな印象だ。
 カーキ色のアンクル丈カーゴパンツは全くたくし上げられていないのにピッタリの位置に収まっていし、ワケの分からない絵だか文字だかのダっさいTシャツも、彼が着ると芸術作品に見えなくもない。モデルみたいなみごとな体形だ。
 軽くブラウンに染めた短めの髪はふんわりエアリー。ブルーの細縁メガネがよく似合っていて、その奥に見える瞳は優しげに潤っている…のだが。


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