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勃ち上がれ! My Prince Patient
【女性向け 官能小説】

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イルミネーションに舞う-2

 「目を閉じて。」
 言われた通りにした。
 「諒子。僕に美味しいお茶を淹れてくれ。つまずいて転びそうになって僕に助けられてくれ。そして…お茶のかかった足を診察してくれ。」
 「何を言って…。あ。」
 見えてきた。はっきりとした形じゃない。それは宙に浮かぶ印象のようなものだけど。
 私の淹れたお茶を幸せそうに飲む清志。私を気遣って真剣な目で見つめる清志。ほっとしたように緩めた目じり、ズボンに出来たお茶のシミ、太腿の軽いヤケド…。
 「諒子。公園のベンチで隣に座ってくれ。」
 煌いて頬を撫でる風、鳥の鳴き声、私の頭を支える清志の肩…。
 「諒子。泣きながら走り去ってくれ。」
 蘭火さんにまくしたてられてあいまいな態度しかとれない清志に腹を立てて、降り出した雨の中を走った…。
 「諒子。僕に怒って。僕に全てを見せて。僕を勃たせて。そして…。」
 診察室。フォトフレームを投げつけられた清志の記憶が弾け、誤解が解けた二人はEDの原因を一緒に探り、私は体と心の全てを清志に見せ、彼の魔獣が目覚めた…。
 「…あれ?」
 閉じた瞼の端っこから、熱いものが零れ落ちた。
 目を開いた。今見たイメージが全てそこに凝縮されていた。手に持ったTシャツのデザインに。
 「そして、誕生日おめでとう、諒子。」
 ハッとして顔を上げた。シャツを握る手が震えた。
 「なんで…なんで知ってるの?私の誕生日。」
 「初めて会ったときに教えてくれたじゃないか。あ、診察室じゃなくて、ホントのホントに初めて会ったときね。今日ってクリスマス・イヴよね。私、クリスマスには詳しいの。理由が知りたい?知りたいよね。じゃ、あっちの部屋で一緒にクリスマスしよ、って。」
 「で、連れていかれたわけだ、空いてる診察室に。そして。」
 「診察台に拘束され、ズボンもパンツも脱がされてジロジロ見られた。あら、期待通り立派なツリーね、メリークリスマス、そして誕生日おめでとう、私、って一人で盛り上がってた。」
 見つめ合い、微笑み合った。
 「今日は、最高の誕生日プレゼントをありがとう。でも。」
 「どうしたの?」
 「どうしたの、じゃないでしょ。こんなことされたら余計に辛いじゃないの!」
 「なんで?何か悪いことした?」
 「してない!したらもっとラクに忘れられたのに。」
 「忘れる?僕を?」
 「そうよ。」
 唇が震えた。手も膝も。そして胸の奥も。
 「あなたには蘭火さんがいる。私の物にはならない。」
 ふう、っと息をついた清志が私の顔を覗きこんだ。
 「そうだよ、諒子の物にはならない。」
 「ほら、そうじゃない。」
 「ならないさ、誰の物にも。」
 「え、蘭火…」
 「ならない。誰かに所有されるつもりはない。」
 清志の瞳に迷いはない。
 「そうね。おじいちゃんに私を頼むと言われて断ったもんね。だから私はナシとして。でも蘭火さんは?初めての相手でしょ?本気で付き合うつもりは無いってこと?」
 私から離れ、海の方に歩いて行った清志が振り返らずに言った。
 「諒子、君は二つ勘違いをしている。」
 「勘違い…。」
 彼は人差し指を立てた。
 「誰かの物になったり誰かに頼まれてじゃなく。僕の心で、僕の気持で、僕の愛情で愛するんだよ。それを教えてくれたのは君じゃないか。そして僕が愛するのは諒子だよ。他の誰でもない、諒子、君だよ。」
 「え、でも、蘭火さんと付き合ってるんでしょ?」
 清志は人差し指に加え、中指も立てた。
 「勘違いその2。蘭火とは幼馴染以上の関係はない。」
 「…じゃあどうして蘭火さんとホテルに。」
 「ああ、それか。」
 「それか、って…。」
 「説明のために呼んだんだよ。」
 「説明?なんの。」
 「僕が勃たなかった理由。そして諒子のおかげでその原因が分かり、解消したということを、だよ。さらには、僕が諒子を本気で愛しているということをね。」
 「そ、それならなんでホテルなのよ。」
 清志が振り返った。苦笑いしている。
 「あの性格だろ?逆上して騒ぎだしたら近所迷惑だからさ。」
 「じゃあ、うまくいったっていうのは。」
 「説明をするのがだよ。結論から言うと、怒りだしたりしなかった。嫌いだから勃たないんじゃないし、大切に思ってるって心を込めて伝えたら、大声ではしゃいで喜んでた。」
 「ああ、その大きな声、なんだ。」
 「そして最後に言ってくれた。おめでとう、って。治療が終わったことと…諒子に出会えたことに対して。」
 そんな素直な子には見えないんだけどなあ。
 「そんな素直な子には見えないだろ?」
 「え?あー、いやいや。」
 「まあ、気性が激しいのは事実だけどね。あの狂鬼の画伯の孫なんだからさ。でも、気性が激しいのは素直さの裏返しじゃないかと思うんだ。」
 「そうかもしれないね。」
 「蘭火ね、こんな風にも言ってたよ。」
 清志はちょっと甲高い声で彼女のモノマネをした。
 「分かってるわよ、あんたのことは誰よりも。意地になってただけ。まあ、諒子さんと仲良さそうにしてるの見た時は正直ショックでパニックなっちゃったけど。」
 「あはははは!さすがにうまいわね、幼馴染のマネは。」
 「だろ?」
 私は彼の目をまっすぐに見上げた。
 「…ごめんね、清志。私また勝手に勘違いして騒いじゃった。」
 「いいさ、そこがまた可愛いんじゃないか。」
 「な、何よそれ。」
 可愛いとか正直に言ってんじゃないわよ。ふふ。
 「ねえ、諒子。」
 「なに?清志。」
 「今から…諒子の部屋にお茶飲みに行っちゃダメかな。」


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