魔獣よ、目覚めなさい-2
「え?え?そうなの?え?これって、勃ってないの?」
清志は自分の股間を覗いて目をパチクリさせている。
「なんてねー。とうとう目覚めちゃったんだね、君の魔獣。」
だってすごく悲しかったんだもん。このくらいのイタズラは許してもらおうではないか、清志くん。
「こらっ!」
「あははははー!」
私は目を赤く腫らしたまま笑った。
清志も笑った。
「勃ったわ、清志が勃った!」
「そうとも。勃ったぞ!」
彼は誇らしげに腰に手をあてている。
「予想していたとはいえ…こうして実際にその姿を目の当たりにしたら私、眩暈がしてきたわ。それ、子猫なら2、3匹昼寝出来るんじゃない?」
「それってどうなの?」
私は挑むような目でそこを見つめ、
「ねえ。」
診察用ベッドを視線で示した。
「見せてもらおうか、そのバケモノが見掛け倒しではないということを。」
「よーし、覚悟しろよ、諒子。」
「何よ、エラソーに。一回も成功したこと無いくせに。性交に成功。」
「そ、それはそう…だけど。」
「ふふふ、おねえさんに任せなさい。導いてあげるわ。」
「あの、怖いんだけど。」
「大丈夫よ。あの頃の私とは違うんだから。」
「あの頃の諒子でも、僕はいいんだけどね。」
「え…。」
清志が私に手を差し伸べた。私はその手を掴んだ。彼は私を引っ張り上げ、立たせてくれた。
私は清志の胸に顔をうずめ、彼はそれをギュっと抱きしめてくれた。
「さあ、諒子。」
「うん、清志。」
ガチャン、キィー。
「あ、ごめん。」
「お、お、おじいちゃん…。」
診察室のドアの所に私のおじいちゃんが立っていた。
「いちばんいいとこで邪魔しちゃったみたいだね。」
私は全裸、清志は下半身丸出しで二人は抱き合っている。弁解の余地なし。
「やあ、清志くん。随分大きくなったなあ。そこも。」
「おじいちゃん、それセクハラ!」
「ん?泌尿器科医として診断しただけだぞ。」
「お久しぶりです。美濃村先生。」
「やめてくれよ。あの頃みたいにゲンジのオッチャン、って呼んでくれ。」
「い、いや、それは…ちょっと…。」
「あはは。大人になったね、清志君。そこも。」
「だからあ!」
「ん?オマエも大人になったな、諒子。」
「や、やめてよ、孫にセクハラなんて。」
「あはは!清志君、この医院を選んでくれて嬉しいよ。カルテで君の名を見つけてもしや、と思ってたんだが、やっぱりそうだったんだね。」
「あ、いえ…偶然なんですよ。ちゃんと治療しなきゃと思ってネット見てたら懐かしい名前を見つけたもので。この街でやってらっしゃるなんて知らなかったし。」
「そうか、それでも名前を覚えてくれてただけで十分だ。ありがとう。」
おじいちゃんが差し出した手を清志が握った。
「ねえ清志。」
「ん?なに。」
「最初この診察室に入ったとき、随分キョドってたけど、あれって…。」
「ああ、うん。名前でここに決めてはみたものの、本当に子どもの頃にお世話になった美濃村源治先生だったらどうしよう、って、急に緊張しちゃったんだ。」
「何度か診てあげたよね。あの頃はまだ小さかったよね、清志君。そこも。」
「…もういいよ、おじいちゃん。」
「お前の胸も」
「もういいってば!」
「だからね、諒子が先生なのを見て動揺しちゃったんだよ。勝手に美濃村源治先生をイメージしてたから。」
「ああ、そんなこと言ってたね。おじいさんの先生だと思ったのに、って。」
なるほど。情報が集まるにつれ、謎が解け、それぞれが繋がっていく。
「ところで清志君。」
「はい。」
「諒子のこと、よろしく頼むよ。」
清志はチラっと私に視線を投げ、おじいちゃんの方に向き直った。
「お断りします。」
え…。
「ダメか?」
「はい。」
こんなことしておいて、なんて処女みたいなことを言うつもりは無いけど…。
清志とおじいちゃんは互いに目を逸らさない。
「…。」
「…。」
ふ、とおじいちゃんの表情が緩んだ。
「なるほど。そうか、そうだな。」
そうだな…。おじいちゃんはもう一度つぶやき、清志の持っている写真を見つめた。
「じゃ、続きをどうぞ。」
「無理よ!」