第33話 『ペナルティ授業、書道と体育』-3
全体として、素直に陰毛を毟って髪の毛で束ねる例は少ない。 どの1組生徒も、少しでも珍しいところの毛を抜こうとする。 尻毛が濃い生徒、臍に毛が密集している生徒、うなじに1本、長い毛がたっている生徒、乳輪に毛が残る生徒――。 薬で既存の毛根がフル稼働している2組生は、普段なら毛が生えない部分にも体毛が溢れていて、
「うわっ、ケツ毛びっしりじゃん、アンタって……成績がよくてもケツマンコはお猿さんだねぇ。 ボーボーだよ、ケツ毛ボーボー。 アンタのあだ名、ケツボーに決まり。 いいや、アンタが嫌っていっても関係ないよ。 これから廊下で見かけたら『ケツボー』って呼んであげるから、呼ばれたらちゃんと返事するんだよ」
「ちゃんと自分でも見といた方がいいよ。 貴方の乳首、周りに細い毛がぐるって巻いてるから、パイ拓とったら凄い事になるんじゃない? こんな乳首、誰も吸うんだって話でさ……これからはいつモジャモジャ乳首になるかもしれないんだから、毎日乳首チェックした方がいいんじゃない?」
「他のコも大概だけど、多分一番毛深いのは貴方だと思う。 毛深いのは情が深いとか、あれって毛深くて見苦しい牝をフォローするためにつくった嘘っぱちらしいから、毛深いなんて何もいいことないのに、こんな、お臍からお尻まで全部汚い毛に覆われちゃってるなんて酷すぎる……可哀想だよ。 あたしだったら恥ずかしすぎて生きていけない……」
1組生が好き勝手に論評する。 それを聞いてヘラヘラ笑う2組生も中にはいたが、大部分は唇を噛み、表情を消して黙っていた。
……。
土曜3・4限、体育。 時間割を変更し、通常体育がない土曜日ではあるが、2時間連続の体育だ。 1・2・3組そろって第1グラウンドに集合し、1組は第2姿勢で待機、2・3組生は1組生の足許でM字開脚に腰を下ろす。 指揮は1組副担の体育担当。 各クラス担任はグラウンド脇のベンチから見学していた。
1組生1人につき、2・3組生が1人ずつ、そして二輪車の『カート』が1つ。 後は犬用の『ハーネス』を大袈裟にした革製拘束衣と、両腕を後ろに回してグルグル巻きにする貫頭衣、目隠し、長鞭、手綱にギャグ――体育倉庫から準備した道具の数々は、いままでの体育授業にない豊富さだ。 いぶかしげに眺める1組生もいれば、キラキラと瞳を輝かせて器具を眺める生徒もいる。 ただし2・3組生は、一様に股間を拡げて俯いていた。 自分達が虐げられる器具と分かっていては、興味より先に嫌悪がきても不思議ではない。
「今から何をするか、凡そ想像はつくでしょう。 50番。 間違っても構わないから、お前の考えと、そう考える根拠を述べなさい」
「はいっ」
第2姿勢をとる50番は、とりわけ興味津々に道具類を眺めていた1人だ。 中てられて躊躇する生徒も多いが、50番は間髪入れず返答する。
「『戦車レース』だと考えます」
自信ありげな口ぶりだった。
「2組、3組の生徒が戦車をひき、1組が御者になって、競争するんだと思います。 馬具が2組あることと『カート』にアタッチメントが2つあることから、2頭立て戦車かな、と思います。 戦車にのってグラウンドの周りをまわり、速さを競うのではないでしょうか」
「宜しい。 見解としては妥当なところだ」
体育担当は50番の発現に首肯した。 『戦車レース』――旧世紀の古代ローマにおいて、ウマに曳かせた戦車にのった戦士が速さを競う演目だ。
「とはいえ当たらずといえど、遠からず。 及第だけど満点じゃないな。 この器具の用途に配慮が及んでいない」
体育担当が指した先には、膨らんだ紙風船が並んでいた。
「正解は『戦車競技』なんだ。 2・3組生が戦車を引くところまでは正しい。 その上で、馬の頭の上に紙風船を取りつける。 御者は他の戦車にのった風船を、鞭で割る。 両方割れてしまったら、その戦車は脱落だ。 自分の風船を守りつつ、相手を割る。 『戦車競技』っていうのは、最後まで残った戦車、或は時間一杯風船を守った戦車が優勝する競技をいう。 たくさん人数が必要なのも大変だが、いささか守備的で決着まで時間がかかるのが難点でね……こういう機会でもないと中々通常授業じゃ取り組めない。 風船は簡単に割れるから、軽く中てるだけでいい」
そういうと、体育教官が手にした長鞭をサッと薙いだ。 狙いはあやまたず、風船が2つ、パンと小さな音をたてて破裂する。
「優勝した戦車には成績面で平常点を上積みしよう。 逆にダメだったら、それなりに減点することになる」
成績、という単語に生徒達の目つきが変わった。 進級に直結する成績を少しでも上げることは、多くの学園生にとって最優先項目だ。
「3人協力してベストな戦車になり、最後まで全力を発揮しような。 それでは、まず初めに馬の衣装をつけるとしよう。 説明書きをみて、手短に装着する。 制限時間は7分30秒で、オーバーしたら失格だよ」
「「はいっ!」」
一斉に生徒が動いた。 手分けしてハーネスに身体を通す。 革製の衣装が密着し、股下、脇、乳首の肉に喰いこむが、圧迫に負けて躊躇う少女はいなかった。 ボールギャグを口に嵌め、後頭部でフックを止める。 顎紐つきの紙風船をかぶり、頭の上に風船がくるよう位置を直す。 鉢巻状の目隠しをしめてから、最後に両腕を背中に回して揃える。 待ち受ける1組生が貫頭衣に腕を収め、すっぽりと全身を拘束した。