第32話 『ペナルティ授業、保健と情報』-4
教室の照明が点灯し、情報担当が授業内容を説明する。
「君らの机の中に『生体コンピューターキット』が一式入ってる。 映像を参考に、今から30分で『生体コンピューター』を自作しなさい。 説明書は用意していない。 ただし、アタッチメントに針や金具を使うことはないし、一切の後遺症無しにセッティングできるようになってる。 どこに何を繋げばいいか、色々試行錯誤すればいい。 制限時間は30分、質問は一切受け付けません。 以上」
それだけいうと、とさっ、情報担当は教員用椅子に腰を下ろした。 余りにも簡潔な説明に、生徒たちはポカンとしている。 9号も同様で『え、これで終わりなの?』と視線で訴えるも、情報担当は首をポキポキ鳴らして寛いでいるだけで、こちらを気にする様子もなかった。
「どうしようコレ……ええと、と、とりあえず机にのってくれる?」
「このペラッペラがモニターかな……これがマウスで、キーボードは……ない、ない、全然ない……自作パソコンってキーボード無しなのかな」
「電源なしで動くわけないじゃん。 あ、電池式なのかも……って、電池ないし」
ああだこうだいいながら、机の中からキットを引っ張りだす1組生たち。 道具一式渡しただけで後は任せるなど、投げっぱなしにも程があるが、生徒からすれば不条理は日常茶飯事だ。 全員に同じキットが与えられていることもあり、ああでもない、こうでもない、1組生同士で相談しながら作業に入る。
9号の指導方針とは全く違うが、これはこれでアリだろう。 自分で考えて積極的に行動する姿勢は、社会に出てから最も求められる態度の1つだ。 ホウレンソウと積極性、両方なくして一人前には成り得ない。
「みんな! 神経が集まってる場所、肘とか膝に電極パッドを貼ってみて! モニターとマウスが繋がったよっ」
「モニターは乳マンコに貼るのがいいと思う。 当然電極は乳首だよね。 で、キーボードは、たぶんこの白いパッドだよ。 お腹にはって、電極をクリマンコに繋いで……っと。 ほら、打ちこんだ分だけ文字が出た」
「すごいねぇ。 主電源なしでも機械が動かせちゃうんだもん」
やがて何台もパソコンが組みあがってゆく。 キットである以上、正解の組み方は何通りもない。 胸にモニターを、股間にキーボード用のパッドを、肛門にマウスボールを、スピーカージャックは尿道に――。 やがて『生体コンピューター』が完成する。 少女の体を基盤とし、少女の神経をケーブル代わりに、少女の体温を電源として動く演算装置だ。 3組生たちは、みな表情が朗らかだった。 全身を機械に犯されているものの、苦痛度合でいえば、大したことがないためだろう。 自分の体をモノ扱いされることはいつも通りで、今更屈辱に震えるようなことでもない。
「……」
大方のパソコンが組みあがったところで、9号は授業担当に会釈した。 他の授業での雰囲気を見る、という目的は達したし、これ以上残ってもしょうがない。 『情報』が自分の『保健』と同じく、アッサリしていたから、他の合同授業も似たり寄ったりなんだろう。 自分が考えた課題をあっさりクリアされたからといって、気に病む必要はなさそうだ。
ガラ……。 そっとドアを開き、視聴覚室を去る9号。 何となく股間がムズムズするから、今夜Bグループ生に難癖をつけて、慰めさせるつもりでいる。 ソファにしようか、ベッドにしようか、それとも和式便座がいいか――不毛な想像に脳を委ね、9号は寮監の仕事に戻っていった。