テイク・ミー・ハイヤー-1
冷房の効いた高速バスから駐車場に降り立つと、アスファルトで舗装された地面には陽炎が立ち上り、圧力を感じるほどに熱量を帯びた空気の塊がのしかかってきた。
瞼を閉じてさえなお眩しい太陽の直射を受けつつ小型トランクを引きずって遊園地ゲートへと歩きながら、ここを選んだことを正直後悔した。おそらく私の顔はとんでもなく不機嫌に見えただろう。周囲の人たちと同じように。
夏の連休を外した平日に休暇を取り、私は一人旅に出かけた。
失恋したとか何か辛いことがあったとか、そういうのではない。
ただ、ひとりで旅をしたかった。
行先に選んだのは、緑豊かなこの島だ。
島と言っても面積で国内ベスト5に入る大きなものだし、私の住んでいる街からは巨大な吊り橋一本ですぐに渡れる気軽なロケーションにある。ちなみにその橋は、吊り橋としては世界トップクラスの長さらしい。
最初の目的地は、去年全面改装されたばかりの遊園地。
遊園地なんて高校生の頃に友達数人で行って以来だし、女の一人旅には何ともミスマッチな場所だ。
でも、私にはそこへ行く明確な理由があった。
園内の大型ロッカーに荷物を預け、観覧車へと一直線に向かった。この炎天下に寄り道をする気になんてなれなかったし、一刻も早く観覧車に乗りたかったから。
平日の午前中ということもあり、幸い待ち時間なしで観覧車に乗ることが出来た。
大きなカメラを肩から下げている私を見て、係員のお姉さんがにこやかに声を掛けてきた。
「いい所をご存知ですね。最高の景色が撮れますよ。」
「ええ、友達からそう聞いて来てみたんですよ。」
カタン、とドアが閉まり、視界がゆっくりと上昇していった。
…暑い。
一応の換気装置が付いているとはいえ、大きな窓から容赦なく照り付ける日差しの前には無力だ。鉄板に囲まれている分、むしろ外よりも生ぬるい蒸した空気が滞留していて、お世辞にも快適な空間とは言えない。
しかし、私が汗を滲ませ耐えているのは暑さに対してばかりではない。
それは時間。
今の私にとって、じれったいほどにゆっくりにしか過ぎてくれない時間に私は苛立っている。
早く、早く。
そろそろか?
もう少し、もう少し…。
いや、まだ見える。もう少し高く上がらないと。
でも、もう我慢出来ない。
興奮に震える手でスカートとパンティを乱暴に剥ぎとって床に投げ捨てた。下半身に残っているのは赤いローヒールサンダルのみ。熱気が股間にまとわりついてきた。
視界いっぱいに広がる青い海、まっすぐに伸びる優美な吊り橋、遠くに見える街並みと緑の山々…。窓の外には絶景が広がっている。
私はベンチからズリ落ちそうなくらい腰を突き出して浅く座り、大きく足を開いた。
待ちわびた時が訪れた。
外の絶景に見せつけてやるかのように窓に向かって敏感な蕾を剥き出しにし、左手の中指でグリグリと虐めた。
「あ…はうぅ、うぅ、く…。」
ここは空中に浮かぶ小さな部屋。薄い金属板一枚の向こうは外。もしも壁の一部がペロリと剥がれ落ちたなら、私のしていることは全て丸見えになる。
「うぅ…。私、ああ私…。こんな所で下半身を剥き出しにして…自分のここを弄ってるのね。」
口に出した自分の言葉がさらに疼きを加速させた。
右手の親指と中指でブヨブヨの崖っぷちを思いっきり左右に開き、人差し指を谷間に埋めた。そこはもうどうしようもないほどにぬかるみ、熱を帯びてさえいる。
「ぐうぅ!あうっ、あはあぁ…。」
左手の指で蕾を摘まみ、力を込めてグニグニと捻じり上げながら、右手の人差し指で谷底を引っ掻きまわしているうちに、下腹部の奥深くにジリジリとした快感の火が燃え広がっていった。それはゴンドラの上昇によって増していく高度とシンクロするかのように高みへ、高みへと駆け上がっていった。
視線の先にはどこまでも抜けるような青空が広がり、悦びに顔を歪ませている私を見下ろしている。
「見ればいいわ。私、自分のここをこんなに酷く痛めつけているのよ。何組もの家族連れや友達同士、恋人たちが景色を楽しんできたこのちっちゃな部屋の中で。そして私が降りた後、また誰かがこれに乗るの。私がこんなことをしたとは知らずに。さあ、見て…。」
しかし、あまりゆっくりはしていられない。観覧車の頂点を越えてしまうと、後から来るゴンドラが自分より高い位置になり、中が見えてしまうから。
「あはぁあぁっ、あうぅ…。」
私は指の動きを早め、腰を大きくくねらせた。
「はあ、はあ…。」
息が荒くなっていく。
「もう少し、もう少しで…。私は、私のここは…。大きな悦びを、私に…。」