受付嬢-1
高級なカウンターテーブルを望むならウォールナット材にするだろう。そのどっしりとした風格は誰もが納得する存在感を放つはずだ。
しかし私が勤めるこのベンチャー企業はそういう既成価値を嫌う。私もその考え方に賛同できるからこそここを選んだ。
周囲の人たちからはもっと歴史の長い大手企業を奨められた。あなたには立派な学歴があるのだから、と。
学生演劇の舞台で光り輝いていたその美貌なら、どんな企業でも入りやすいのに、とも言われた。
でも私が選んだのはツルツルで冷たいウォールナットではなく、温かい手触りのタモ材で出来た受付カウンター。触れるたびに心安らぐ。
だけど、今私が触っているのはカウンターではない。
「いらっしゃいませ。」
にこやかに立ち上がり、来客の応対をする。ほとんどの場合、アポ済みの部署へ内線をすれば事足りる。
そんな私のパンティは、膝までズリ下げられている。
ひざ丈の制服スカートからそれははみ出しているが、受付カウンターの陰になっていて来客からは見えない。
「まもなく降りてまいりますので、そちらのソファーでお待ち下さい。」
応対を終えた私は椅子に座り、スカートを捲り上げ、太腿に手を這わせた。
私が就職した頃には十数人しか居ないちっちゃな会社だったのに、今ではこんなに立派な自社ビルを建てるまでに成長した。国内はもとより、海外でもその名を知らぬ者は居ないだろう。
私の職場であるエントランスロビーはかなり広い。それを来訪者の目線で説明するとこうなる。
大きなガラスドアの正面入り口を入ると、突き当りに私の居る受付が見える。見上げれば屋上まで吹き抜けが続き、左右の広々としたロビーにはゆったりとしたソファーが十分な間隔を開けて配置されている。シンプルだが美しい曲線を描くテーブルセットが並んだドリンクコーナーも設けられている。
その巨大な空間には常に人々が行き交い、会話し、笑っている。しかし、意外なことにうるさくは感じない。木材を多く使ったその作りゆえのものかもしれない。
そんな環境の中、受付カウンターの下の私の手は太腿を這って行く。足の付け根に向かって。それはだんだん内側へと潜り込んでいき、カサカサとした感触を越えて、
「…」
声など出さない。表情も変えない。しかし私の指は確実にそこを捉え、カウンターの陰でうごめいている。
社内の人、社外の人。知っている顔、いない顔。宅配のお姉さん、清掃のオジサン。
様々な理由でそれぞれの用事で、いろんな人がいろんな方向に歩み、立ち、話す。
それがこのエントランスロビー。
下腹部が熱い。快感がジュワーっと広がっていく。
「…」
苦しい。声を必死で抑えている喉が締まってくる。
動きたい。腰をくねらせ、強すぎる快感を逃がさなければ気がおかしくなりそうだ。
「…」
それでも私は声を出さない。動かない。
体中に悦楽の波動が漲ってきた。もうすぐだ、ああ、もうすぐ…。
その時、正面ドアを開けてこちらに進んでくる人物が見えた。
なんということだ。
抑え込むのが最も難しいその瞬間に、立ち上がって挨拶をすることになんかなったら…。そんなことを考えると、股間の疼きが暴力的な程に荒れ狂い、カウンターの下の太腿がブル、っと震えてしまった。
しかし、その想いは叶えられなかった。
「こんにちは。」
まだずいぶん距離があるのというのに、来客の方から先に挨拶されてしまったから。
「いらっしゃいませ。」
立ち上がって応対した。不発に終わった欲情など微塵も感じさせないで。
すっきりとまとまったショートカットの黒髪がよく似合う、キャリアふうの女性だ。歳は私と同じくらいだろう。二十代半ばに見える。タイトなグレーのスカートスーツの着こなしが、彼女の自信を感じさせた。
「アポイントメントはございますか?」
こんなにタイトなスカートに手を入れるのは難しそうだな、なんてことをつい考えてしまいながら、型通りの質問をした。
「いえ、御社の製品カタログをいただけないかと思いまして。」
ネットでも見れるとはいえ、紙のカタログを求めるお客様は意外と多い。直接手に取ってじっくりと見たいのだ。その感覚は私もよく分かる。…けど。
彼女がカタログを求めた製品は三年ぐらい前のもので、カウンターの上には並んでいない。足元のキャビネットにも無い。後ろの棚にはあるのだが、そこまで移動するには一つ問題がある。
カウンターから離れるに従い、来客の視線は私の体の下の方にまで到達するようになっていく。つまり、膝までズリ下ろしてあるパンティが見えてしまうのだ。
どうしよう…。
私は一つの決断をした。