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その時、莉奈の身体から離れた夢威叶がトトト、と男の側に駆け寄った。
「夢威叶……」
「パパ、泣かないで。僕、パパのお家にも遊びに行くからね」
地面に膝をついたままの男の頭を、こんなに幼い子供がヨシヨシと慰めるように撫でていた。
「私を……パパと、呼んでくれるのか?」
「うん、だってパパなんでしょ?」
ブワッと目から涙を溢れさせる男。
いや、男だけじゃない。莉奈も、そしてずっと傍らでやり取りを眺めていた俺までも、夢威叶の健気さに涙を流していた。
莉奈と男の間には、埋められない溝があっても、この子にとって莉奈は母親で、男は父親なのだ。
「……夢威叶、ありがとう。お前は本当にいい子に育てられたんだな」
「うん!」
「ママのこと好きか?」
「うん、ママ大好き!!」
「そうか、じゃあ私は……パパは、夢威叶とママが美味しいご飯食べられるよう一生懸命応援するからな」
「わあい!! 僕、ママのハンバーグ大好きなんだ!」
無邪気に笑う夢威叶の後ろで、莉奈が崩れ落ちるように泣いていた。
◇
「今後については、また改めて連絡する」と言い残し、その場を去った男は、最後にずっと傍観者だった俺に向かって、軽く頭を下げた。
俺の姿が見えたってことは、やっぱりサンタ・カンパニーのクビは冗談じゃなかったのか。
ゴミ集積所に佇むサンタクロースの格好をした俺を、アイツはどんな風に思ったのだろう。
一方。
去っていく男の後ろ姿を見つめる莉奈の表情は、もはや憎悪の念なんて感じられず、ただ何か考え込んだようにぼんやり口を半開きにしていた。
すぐには現状を受け入れられないかもしれない。
夢威叶の存在を否定したくせに、手のひら返してきた男を許せない気持ち。
だが、夢威叶はそんな男を「パパ」と呼んでいたのだ。
「夢威叶、あの人は……、パ、パは、優しかった……?」
「うん、一緒にお風呂に入ったり、お仕事お休みの日はたくさん遊んでくれたんだよ!」
子供は正直だ。
あの男がこの数ヶ月だけでも愛情を持って接してくれたのは夢威叶の顔を見れば一目瞭然である。
嬉しそうにあの男の事を話す夢威叶に、莉奈は何かを悟ったかのように小さく微笑んだ。
自分の憎い相手でも、夢威叶にとってはただ一人の父親なのだ。