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「ふざけないでよ……。そんな妥協してくるくらいなら、養育費なんていらないから、夢威叶の親権まるまるよこしなさいよ!!」
声を震わせて怒鳴る莉奈に、
「莉奈! 話を聞きなさい!!」
と、男はそれを上回る大きな声で、叱責した。
さすが一流企業の重役に就くだけあって、その迫力は俺すら身動きが取れない程。
当然非力な莉奈もまた夢威叶を抱き締めたまま、身体を強張らせていた。
「これは、私の為でも君の為でもない。夢威叶の為に考えた結果のことなんだ」
やがて、悔しそうに下唇を噛んでいた莉奈の瞳から涙がポロッと溢れた。
「……そうやって、一時の感情に任せてばかりで子育てできる程、世の中は甘くないんだぞ」
「…………」
「確かに、私が君にしてきた仕打ちを思えば、金輪際関わりたくないと思うのも無理はない。だが、私だって夢威叶の父親だ。この子を育てる義務がある」
「……今さら何言ってんの? アンタ、この子が出来た時に言った言葉、忘れたの?」
「……忘れてないさ。確かに私は人として最低な男だ。君達を捨てたくせに、今になって君から夢威叶を奪い、自分のものにしようとした、これは紛れも無い事実だ」
感情を露わにしたせいか、男は顔を真っ赤にして、時折言葉を詰まらせていた。
「だが、たった数ヶ月一緒に暮らしただけで、本当にこの子が愛おしく思えてきて……。たった数ヶ月でこうなんだ、ずっと夢威叶と暮らしてきた君の気持ちを思うと、本当に申し訳なくなってきて……」
そして男は、莉奈達の目の前に跪いたかと思うと、地面に額をつけるくらい頭を下げて来た。
「本当に、本当に申し訳なかった!!」
「…………」
「許されないことをしてきたのは重々承知している! だからと言うわけではないが、せめてこれからは陰ながらでも支えさせてもらえないだろうか! 父親と認めなくてもいい、夢威叶と君が幸せに暮らせるよう手伝いをさせてくれないか!?」
男の声は震えていた。
経済力がない莉奈を、男が親権を持つことで支える、そういう形で収めたかったというよりも、男が夢威叶と少しでも繋がりを持っていたいから親権が欲しい、そんな印象を受けた。
許されないことをしたけれど、父親になりたい、と。