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「ママ!!」
背後から聞こえた、舌ったらずの高い声。
莉奈の大きな瞳がさらに見開かれて、俺の背後を凝視していた。
俺もまた、ゆらりとその声の方を見れば。
角の電信柱の影に、小さな男の子が立っていた。
自分の存在に気付いたと思ったのか、幼稚園児くらいのダッフルコートを着た男の子は、ここからでもわかるくらい目を潤ませて、こちらに一目散に駆けてくる。
あれが夢威叶か? と訊ねるまでもなかった。
莉奈は持っていたゴミ袋をその場に放り投げて、その男の子の方にまっしぐらに走り出していたから。
「ママァ!!!」
真っ赤な顔をクシャクシャにして走ってくるその姿が、笑えてくる。
……まったく、泣き虫なのは母親譲りだな。
そして泣き虫親子の母親の方が両手を広げて待っていると、男の子は迷わずその胸に飛び込んでいた。
「夢威叶!!」
「ママ、ママ……!!」
ゴミ集積場の前で親子再会なんて、全くロマンチックじゃない。
だけどそんなことなんて一向に構わない莉奈と夢威叶は、隙間なんてないほどにキツく抱き合ってお互い泣いていた。
チクショー、俺と抱き合っていた時より力がこもってるじゃねえか。
だけど、悔しいなんて気持ちは微塵もなかった。
すっぴんのダサいカッコで泣く莉奈の姿が、なぜかとても嬉しかった。
夢威叶が父親に引き取られてから、ずっと抜け殻みたいになっていた彼女。
俺と抱き合っている時でさえ、あんなに感情がむき出しになっていなかったような気がする。
ひとりぼっちの莉奈を、僅かな時間でも幸せにしたつもりだったけど、やはり夢威叶の存在に勝るものはなかったんだな。
そんな2人を遠巻きに見守っていると、夢威叶が走ってきた方から男が歩いて来るのが見えた。
スーツをビシッと着こなした男は、白髪が結構目立ってはいるものの、背筋をピンと伸ばして身のこなしがいい、なかなかの男前なオッさんだった。