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子供を育てるということはとても大変な事なんだ。
莉奈が一人で夢威叶を育てたいという強い意志を持ってるのは、とてもよくわかる。
だが、あの男が夢威叶を大切な存在だと気付き、支えてあげたいというのなら、それに頼ってもいいのではないだろうか。
莉奈じゃなく、夢威叶の為に。
そう伝えようと、彼女に近付いた瞬間、
「あ、サンタさんだ」
と、夢威叶の黒目がちな瞳がこちらをクリンと見上げた。
初めてまともに対峙する夢威叶は、ほっぺが赤くて小さくて、髪の毛に寝癖がついた、とても可愛らしい男の子だった。
そんな彼は、初めて見るサンタクロースに目をキラキラさせてこちらを見上げる。
「ねー、サンタさんがボクの欲しいもの、プレゼントしてくれたの?」
「え……?」
俺のズボンの裾をクイクイ引っ張った夢威叶は興奮気味に鼻息荒く喋り出す。
いや、プレゼントは渡し損なったし、俺はこの子に与えられるものなんてもう何も持っていない。
なのに夢威叶は満面の笑みで、
「ボク、サンタさんに『ママを下さい』ってずっとお願いしてたんだよ!!」
と、俺に伝えた。
刹那、俺達の間に沈黙が流れる。
ふと莉奈に視線を向けると、彼女はもう人目もはばからずに涙で顔をグシャグシャにしていた。
「ママ、泣かないでよー!!」
俺の視線に気付いた夢威叶は、急いで莉奈の側へ駆け寄った。
「ホラ、泣かないの。ママは強い子でしょ」
あの男にしたみたいに、その場に崩れ落ちた莉奈の頭を優しく撫でる。
その慰め方がやけに大人びていて、きっと莉奈はいつもこんな風に夢威叶が泣いてる時は慰めていたのだろう。
ふと顔を上げた彼女と目が合って、互いに目を細めて笑う。
そんな莉奈に一つ頷いた俺は、
「メリークリスマス」
と呟いた。