3-2
帰ると口にした事で、微妙に気まずくなってしまった空気に、咳払いを一つ。
でも、俺はサンタクロースだから、帰らなくてはいけないんだ。
「俺、サンタクロースなのにホント無力で申し訳なく思ってる。サンタの仕事は、プレゼントを配る事なのに、夢威叶くんに渡せなくて。それにアンタの抱えてる問題を何一つ助けてやれなかったし……」
だけど、莉奈は小さく首を横に振った。
「あたし、あなたに感謝してる。あなたが来てくれなかったらあのままダメになってた。夢威叶を奪われてひとりぼっちで、クリスマスなんて大っ嫌いになってた。あなたが一緒にクリスマスをお祝いしてくれたから……あたし……」
おしゃべりしてた時、あんなに楽しそうに笑っていたのに、また莉奈は顔をクシャクシャにして涙をこぼした。
ホント泣き虫だなぁ、コイツは。
「莉奈……」
「あたし、頑張る。あの人には、“夢威叶にはもう会わせられない”って言われたけど、本物のサンタクロースに会えたんだもん、夢威叶にもまたいつか会えるって信じてる」
泣きながらも舌を出しておどけて見せる彼女に、胸が締め付けられて、次の瞬間、俺は莉奈を抱き締めていた。
「サンタさん……」
細くて小さな身体。またコイツが1人になってしまうのかと思うと、俺まで目の奥が痛み始める。
風呂上がりの髪の香りが鼻をくすぐり、抱き締める腕にさらに力がこもった。
このまま1人にしたくなんてない。したくないのに、俺は行かなければいけない。
クリスマスなのに、望むものを与えてなれないなんて、なんて無力なんだろう。
「ゴメン、ゴメンな」
「なんで謝るの?」
「さあ……」
「それに……どうして抱き締めてくれるの?」
「さあ、何でだろうな……」
笑って言うつもりが、勝手に声が震えちまう。
帰るつもりなのに足が動かない。
莉奈も何かを感じたのか、俺の身体に腕をまわした。
「サンタさん、そんな優しくされたらさ……あたし……もっとワガママ言いたくなっちゃうよ……」
彼女の声も震えているのがはっきりわかる。
込み上げてくる生唾をゴクリと飲み込む。
多分、俺も莉奈もこうなるってきっとどこかでわかっていたんだ。
そっと彼女の顔を覗き込むと、潤んだ瞳がこちらを見上げていて、
「お願い……今だけってわかってるけど……抱いて欲しい……」
と、小さな声で呟いていた。