とどけ!おいしいケーキ-2
「え〜と、住所だとこのへんなんだけどなぁ……」
と、お店からほんの数分くらい離れた路地裏を、お届け先のおうちを探し歩いているときです。
『『『アリアリアリアリ〜!!』』』
「!?」
さっきのアリさん軍団が、あたしの行く手を通せんぼしてしまいました。
『さっきはよくも、子分たちを痛め付けてくれたな!!』
『今度はワレワレ、兵隊アリ三蟲士が相手だ!!』
『よし、コムスメにジェットコースターアタックをかけるぞ!!』
たて1列に並んだ3匹は、ケーキを持ったあたしに容赦なく突進してきます。
「もう、せっかくのケーキが崩れちゃうじゃない!!」
あたしはケーキの箱を抱えてかばいながら、アリさんたちを踏んづけて、飛び越えました。
『お、俺ッチを踏み台にしたぁア!?』
「見上げちゃダメ〜!!」
宙に舞うあたしを見上げるアリさんたちからは、サンタ風のミニスカートが風にまくられて、下着に包まれたお尻や、がまる見えになっちゃう!!
手でおさえて隠したいけど、大切なケーキを抱えてるから、ムリなんです。
『ムギュ』
『ゲヘェ』
仕方がないから、うしろの2匹の顔も続けて踏んづけて、飛び石を渡るように飛び越えてやりました。
『くそ、コムスメにもう一度ジェットコースターアタックだ!!』
『『おう!!』』
「そうはさせないわ!!」
とあたし、ケーキの箱をソッと後ろに置いて、デコペンを構えました。
「リボンウィップ!!」
デコペンの先端が輝いて、ピンク色のムチが雪の積もった地面をはじきます。
『うむう、うかつに突進出来んぞ!!』
『く、くそ、……どうすればこのコムスメを』
ムチをおそれて近づけないアリさんたちが、くやしがっているときです。
♪ぐうぅ〜〜!!
「ッ!?」
♪ぐううぅぅぅ〜〜〜、きゅるるん!!
奇妙な音が、あたしの下腹部から鳴り響いたのです。
そうです。
あたしのお腹が鳴った音なんです。
お昼ごはんを食べないで出掛けてきちゃったから、お腹がペコペコなんです。
思いがけない大きな音が恥ずかしくってあたし、ほっぺたが熱くなっちゃった。
でも問題は、音の恥ずかしさなんかじゃ、ないんです。
『おい、あれ見ろよ!?』
『コイツ、なんだか様子が・・・!?』
エナジーが足りなくなって、魔法のコスチュームが、少しずつ、溶けはじめているのです。
あたしの魔法エナジーのみなもとは、ご飯をしっかり食べて、元気になることです。
お腹が空きすぎて、デコペンがエナジー不足になっちゃっているんです。
ところどころやわらかい液状になったコスチュームのあちこちが、溶けて穴が開き始めています。
さらには、デコペンが変化したピンク色のムチまでが、弱々しく縮んでいくではありませんか。
い、いや〜ん。
このままエナジーが全部無くなってしまったら、スカートもブラも、ぜーんぶ溶けて無くなっちゃう。
そうしたら、きっと。
ここにいるアリさんたちや、街のみんなに、あたしの恥ずかしい姿を、まるはだかの佐藤イチゴを、見られてしまうんです。
やだやだ。そんなの。
でも、エナジー補給しようにも、食べ物がどこにも・・・
『バカめ、ナニをぼんやりしてやがる!?』
『ソレッ!!』
『つかまえろッ!!』
しまった!!
考え込んでいたあたしのスキを突いて、ムチ型のデコペンを叩き落とされるやいなや、両腕を捕まえられてしまいました。
『『『アリアリアリアリ〜〜♪』』』
『ゆだんしたな、コムスメ』
地面に転がったムチをひろいあげると、アリさんはニヤニヤと笑いかけてきます。
『子分たちのおかえしを、これからたっぷりと味わわせてやるぞ?』
アリさんの真っ赤な目玉が、妖しく光りました。