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「そうだったんですか……」
ひと通り話し終えた女の向かいに正座していた俺は、なんと言葉を掛ければいいのかわからず、膝の上に置いた手をグッと握り締めていた。
目の前には、瞳を真っ赤にして鼻をかむ女。
あー、鼻かんだティッシュをそこら辺に放り投げるから、部屋が散らかるんだろ。
それでも、そんな些細な事を注意するのは申し訳ないような気がして、俺は彼女の一連の動作をボンヤリ眺めていた。
彼女……は、名前を奥野莉奈(おくのりな)と言った。
年齢はなんと26歳。あまりに老け込んで見えたのは、ショックのあまりろくにメシも食えなくなったかららしい。
そのショックとは。
「不倫の末にできた子供なんて、産むべきじゃなかったってのはわかっていたんですが……」
さっきの悲痛な叫びから一転、弱々しい話し声の莉奈は下唇をキュッと噛み締めていた。
そう、夢威叶は、莉奈と不倫相手の間に出来た子供であったのだ。
貧しい家庭で育った莉奈は、高校卒業後にお金を稼ぐべく水商売の世界に入った。
彼女は今でこそこんなにがっくり老け込んではいるものの、よく見れば顔は小さいし、作りは整っていたので、そこの世界に踏み入れたのは自然の流れだったかもしれない。
そして、そこで莉奈は1人の男と恋に落ちる。
それが、夢威叶の父親だったのだ。
しかし、その男は日本屈指の大企業の重役。そして、彼には妻がいたのである。
それを初めて知った時は、別れなければいけないと思った莉奈に対し、男は若く美しい莉奈を手放すことが惜しくて、ズルズルと彼女を引き留め続けていた。
そして純粋な莉奈は、それを本当の愛と信じてしまい、日陰の身ながらも懸命に男を愛していた。