2-6
女の涙には免疫のない俺。
それでなくても彼女は子供を奪われた傷心の身だ。何が引き金になって泣くかなんてわからない。
慌てて彼女の側に駆け寄ると、洗い上がりのシャンプーのいい匂いがした。
「あ、あのっ、これって余計なおせっかい……だったりして……」
自信の無さから語尾が弱くなる俺に、莉奈は両手で顔を覆いながらブンブンと首を横に振る。
まるで、濡れた髪から水しぶきが飛んで来そうなほどの勢いだ。
そして彼女は、
「違うの……」
と言うと、ゆっくり覆っていた手を下ろして、俺を見上げる。
不意に高鳴る胸。
この女、こんなに綺麗だったのか。
「とっても嬉しいの……」
すっぴんで幼く見える莉奈の笑顔を初めて見た俺は、ビビッと全身に電気が走ったような気がした。
「……アンタ、笑ってた方が絶対いいよ」
「え?」
潤んだ瞳で見つめられるのがなんだか照れ臭くて、思わずあさっての方向を向く。
「今日はクリスマスなんだ。俺じゃ夢威叶くんの代わりにならないけど、こんな日まで泣いて過ごすのは悲し過ぎるだろ? だからってアンタの悩みが解決するわけじゃないけど、今日だけは1人にさせないよ」
「それって……」
「だから、今夜は俺が一緒にクリスマスを祝う。仕事もここが最後の一件だったし、明け方までに帰れば何の問題もない。本物のサンタクロースとクリスマスを過ごせるなんて、アンタ、めちゃくちゃラッキーなんだぜ」
俺のおどけた口調がツボに入ったのか、莉奈は真っ赤な瞳のままクスクス笑い出した。
「あたし、本物のサンタよりも夢威叶と過ごしたい」
「おーい、本物のサンタを目の前に、そういうこと言うか普通?」
それでも、人差し指で瞳を擦り付けながら小さく笑う莉奈に、腹は立たなかった。
莉奈は、本当に純粋な女で、立派な母親なんだ。
本物のサンタと過ごすクリスマスより、自分の子供と過ごしたいとハッキリ言えるなんて、よっぽど夢威叶を愛している証拠だ。
そんな彼女を俺は助けることは出来ないけれど、せめて1人にはさせないでいよう。
サンタの存在を信じている純粋な莉奈が、クリスマスを嫌いならないように。