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奪った、というのは言葉の通り、男が夢威叶を奪ったということだ。
男と妻の間にはどうしても子供が出来なかった。
政府の要人を父に持つ妻との結婚は、元々政略結婚のようなものであり、二人の間に愛は無く、子供が出来ないことが離婚の決定打となった。
その時すでに男は50歳を過ぎており、若い妻をもらってもなかなか妊娠は難しいという、問題に直面する。
そこで浮かんだのが莉奈の存在だ。
堕胎を要求しても、頑なにそれを拒んだ莉奈には、強引に金を渡して捨てたわけだが、もし子供を堕ろしていなかったら?
ふとそんなことを思った男は、何の気なしに莉奈の身辺を調査し、その結果、夢威叶の存在を知ることとなった。
思いがけず自分の子が存在していることを知った男は、どうしても夢威叶を手に入れたくなった。
そこで莉奈と再婚でもすれば大団円だったのだが、莉奈の貧しい家柄が、男のそれにふさわしくないし、そもそも莉奈も男も互いに愛情なんて残っていない。
ということで、男は結局、夢威叶だけを養子にしてしまったのだ。
もちろん莉奈は、大金を積まれても息子を手放すつもりなどなかった。
だが、相手は大企業の重役ポストを任されるほどの男。
権力という武器に抗えるほど、莉奈は強くもなく、賢くもなく、結局相手が有能な弁護士を引き連れ、夢威叶をさらっていったのだ。
「……一度は夢威叶の存在を否定してきたくせに、今更奪うなんて、許せないのよ」
そう言ってフローリングを叩きつけている手が、あまりにもやせ細っていて、俺は下唇をグッと噛み締めた。
貧しいながらも、この女は子供の為に一生懸命生きてきたんだろう。
そんな生きがいを無慈悲に奪うなんて、人間って奴はなんて残酷な生き物なのか。
俺は手にしていた夢威叶へのプレゼントの包みをジッと見ていた。
俺達サンタが配るプレゼントは、中身が何かを知らされていない。
ただ、その子が本当に望んだものが入っている、とは聞いたことがあるけれど、夢威叶の本当に欲しかったプレゼントは何だったんだろう。