〈略奪の雨音〉-1
『ふぇ〜、いきなり降ってきやがった』
『やっぱり山奥の天気は変わりやすいなあ』
頭や肩を雨で濡らした二人の男がフロントに飛び込んできた。
一人は両手にバッグを持ち、もう一人は何故かブリキのバケツを持っている。
このタイミングでこの旅館に訪れるという事は、その目的は推して知るべしだ。
『中原さんよ、麻衣はどうしてる?』
『麻衣様は先ほど〈お楽しみ〉に遭われました。一足違いでしたね』
『ちょっと遅かったか。じゃあ奈々未に推しメンチェンジするかな?』
二人は麻衣が既に姦されたと聞くや、もう一人の美形である奈々未に推しメンを変えた。
その表情には僅かに無念さが滲んでいたが、中原の次の台詞で笑みへと変わった。
『実はですね、真夏様が奈々未様に禁断の告白をなさいまして……先ほど新しいカップルが誕生したところでございます』
思いもよらぬ展開に、二人の男は一気に気色ばんだ。
これならば多少は見劣りする奈々未であっても虐め甲斐があるし、これに真夏も一緒となれば更に嬲り甲斐があろう。
『……てコトは、まだ二人は姦ってねえんだよな?』
『もちろんでございます。まだ真夏様と奈々未様はお二階で休まれてます。先ほどから推しメンチームの方々がお二人をお待ちしておりますよ?』
『よし。早いトコ合流して姦りに……』
静かに盛り上がっている三人の側に、女将がスーッと近づいてきた。
その顔はにこやかであったが、瞳だけは冷たかった。
『お客様が全員お集まりになったんだ。中原、もう玄関は閉めちまいな』
この高圧的な物言いこそ、女将の本性なのだろう。
そして冷酷な笑みのままで二人の男に切り出した。
『この雨なら外に居ても声は聞こえないでしょう。まだ《宴》の前ですけど“楽しまれて”構わないでしょうよ?』
女将は口元を払うような仕草をしてニヤリと笑った。
かなりの大粒の雨が降っている今なら、旅館の外をうろつく人も居ないだろうし、多少は悲鳴が漏れたにしても、それらは全て雨音に掻き消されるだろう。
つまり麻衣や里奈のように防音の監禁部屋に連れ込む必要はなく、口轡の必要もなくなったという事だ………。