宴 〜形〜-1
「智佳。今夜は大丈夫か?」
「うん。あ、真矢ちゃんと行くとこがあるから、屋敷の方へ行くのは少し遅れるね」
智佳の言葉に、胤真はうなずいた。
「今夜は芳樹君も来る。ちょうどいいから、真矢ちゃんと一緒に来ればいい」
−あの日以来、智佳と真矢は仲が良い。
最近増えて来た四人でのプレイが、関係しているかも知れないが……。
胤真としては、ちょっぴり寂しい気がした。
「うん。それじゃ、後でね」
手を振り合って、二人は別れる。
−お互いの学校の中間地点で、智佳と真矢は落ち合った。
二人は、繁華街の方へ足を向ける。
年も近いし、道すがらのお喋りの種には事欠かなかった。
「……で、今日お誘いしたマッサージサロンが、安いのに超気持ち良いって友達の間じゃ大評判なんですよ。智佳さんも、そこは行った事ないんですよね?」
智佳は苦笑する。
「どうもそのテの場所には縁がないから」
―別に友達付き合いをおろそかにしている訳ではないが、ここ最近の休日は胤真から与えられる苦痛と快感に身をよじっている事の方が多い。
金曜の夜から日曜の夕方まで、手を変え品を変えて腰が立たなくなるほど愛してくれる胤真の手からは、もはや逃れたくなどな……。
「智佳さん!」
真矢の鋭い声に、智佳ははっとした。
「あ……ごめん」
「びっくりさせないで下さいよぉ。いきなりMモード全開っ!ってな感じの目付きするんですからあ」
真矢の物言いに、智佳は苦笑する。
確かに普段の生活と胤真とのプレイの間では、智佳の場合は意識が違う。
普段は『胤真』と呼ぶのに、責めを甘受している時は『胤真様』と呼んでいるし……真矢の言う事も、あながち嘘ではない。
「いや、あとちょっとしたら自分の身に起こる事を考えると、つい……ね」
「ああ……」
真矢は納得した声を出す。
「胤真さんと智佳さんて、いっつも激しいプレイしてますもんね。今から待ち切れなくて、ですか?」
「ま、そういう事」
智佳は微笑んだ。
『リラクゼーションルーム 華』
真矢の案内でたどり着いたマッサージサロンは、そういう名前だった。
店内は白を基調とし、スタンド等の間接照明を多用している。
等間隔に並べられたリクライニングチェアで、数人の女性がアロマテラピーとマッサージを受けていた。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐの所にある受付のカウンターにいた女性を見て、智佳は思わず声を上げた。
「由香理さん!?」
橘由香理が、そこにいたのだ。
薄いベージュ色の制服に身を包んだ橘由香理は、智佳の姿を認めてかくんと口を開ける。
「智佳さん!?どうしてここに!?」
「どうしても何も……施術を受けに」
何となく間の抜けたやりとりに、真矢が首をかしげた。
「施術を……?」
由香理は手元にあるノートをぱらぱらとめくる。
「予約のお名前は瓜生と……」
「それ、私です」
智佳の脇から、真矢が手を上げた。
「お知り合い……ですか?」
真矢の言葉に、智佳がうなずく。
「何て言えばいいのかな……手早く言えば、胤真の愛人その二?」
由香理が吹き出した。
「オーナー、何かありました?」
騒ぎを聞き付けて、スタッフ数人がカウンターの方へ顔を出してきた。
「ああ、大丈夫。私の知人が来ただけです」
スタッフを体よく追い返すと、由香理は首をかしげる。
「もしよろしければ、個室でマッサージがてらお話させていただきたいのですけれど?」