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その表情を見て少し安堵した俺は、
「俺、お子さんにプレゼントを届けに来たんです」
と伝えた。
考えて見れば、俺の姿が見えるってことは、サンタクロースの存在を信じているってこと。
見た目こそ不気味な女だけど、俺が本物のサンタクロースで、プレゼントを届けに来ただけってわかってもらえれば、最後の仕事も難なく終わるはずだ。
だけど、俺はその時は気付かなかった。
「お子さんにプレゼントを届けに来た」と言った時に、女の眉がピクッと動いたのを。
なのに俺は、ポケットから取り出した配達伝票をカサカサと広げて、配達先の確認をする。
「ええっと、お子さんのお名前は奥野夢威叶くん、5歳。アハ、カッコいい名前っスね」
心にもないお世辞と、作り笑顔で俺はチラリと女を見ると、彼女は顔を俯かせて黙っていた。
……すげぇ不気味な女。
こちらがどんなに明るい態度で接しても、空回りするのは目に見える。
もはやサッサとここを離れるのが吉だろう。
「あの、夢威叶くんは隣のお部屋で寝てるんですか?」
と、おそらく寝室と思われる部屋を指差した。
サンタ・カンパニーの仕事は、プレゼントを“本人の”枕元まで社員が届けること。
ポストに投げ置いたり、誰かに委託したり(これは大人には姿が見えないからあり得ないケースだが)するのは厳禁なのだ。
まあ、そのルールは俺的には厳しいとは思っていない。
眠る子供の枕元にプレゼントを置いて、「メリークリスマス」と声を掛けてあげると、なんだか幸せな気持ちになれるからだ。
だから俺は、どんなに配達件数が多くても、子供の寝顔には必ず「メリークリスマス」と声を掛けている。
世の中の人がみんな、クリスマスを好きになってくれるように。
すると、今まで黙ったまんまの女が、プルプルと身体を震わせていた。
ヤバい、俺、何か地雷踏んじゃった!?
ギリギリと女が奥歯を噛み締める音が響く。
こめかみに汗が伝う。さっきまであんなに汗だくで暑かったのに、一気に身体に鳥肌が立って、ブルッと身体が震えた。
ゆっくりと顔を上げる女。
それはまるで般若のように怒りに満ちてーーいたわけじゃなく。
「夢威叶はもう、いないのよ!!」
と、悲しく叫び出した。