狙われた純潔-7
次に目を覚ました時、遥香は理科準備室に一人ぼっちだった。頭の中がぼんやりと霞んでいて、気絶する直前まで何が起きていたのかが思い出せない。
おぼつかない視線を漂わせていると、部屋の隅に人が立っていることに気づいた。
不審に思いながらもさらに目を凝らしてみる。そこでようやく遥香は理解した。人だと思っていたのは、じつは人体模型だった。
立って行って近づいてみると、身長がちょうど遥香と同じくらいある。人体模型の右半分には皮膚らしきものがなく、生々しい筋肉や内臓などが剥き出しになっている。下半身に生殖器が付いていないので性別は不明だが、おそらく男性だろう。
と、ここで自分の性別について遥香は振り返ってみる。
私には女性の生殖器が備わっている、だから私は女性なんだ──そのことを自覚した途端、一時的に失われていたものが脳内で一気に開花した。櫻井に純潔を奪われた時の記憶が、鮮明によみがえってきたのだ。
両目から涙が溢れ出し、震える頬をすべり落ちていく。
どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか、その理由がわからないから遥香は泣いているのだ。
どうして十八歳未満の女の子が標的にされたのか、納得がいかないから遥香は悔し涙を流しているのだ。
学校の中なら安全だと思っていた。でもそれは違う、と今なら断言できる。
レイプの痕跡を拭う方法もわからないまま、遥香は夕闇に包まれた暗い部屋に佇み、しくしく泣きながら途方に暮れるしかなかった。