BаBY-3
「早く来なさいよ!」
私はまだ固まったままのナオに叫んだ。ナオは一瞬ビクッとなったが、急いで私のところまで走ってきた。ナオの顔が照らされる。何だかいつもより、顔が赤いような気がするのは気のせいかしら?
「お、お前…」
「ん?」
「スッピンだな!」
「はあ?」
上ずった顔で何を言いだすのかと思えば…。
「何よ…!なんか文句ある?」
「何で学校にも素顔で行かねぇんだよっ」
「だってイヤだもん。私はいつも完璧でいたいの」
「スッピンだと完璧じゃないのか?」
「……」
「…俺はそっちの方が好きだぞっ」
「え…」
私は驚いて、ナオの顔を凝視した。ナオは私を真剣な顔で見下ろしている。
「俺は素顔の音々の方が好きだっ。影で努力して、自分の希望を実現させる素のままのお前を…。小学校の頃からなっ!!音々は、あの自信家の音々は…自分のスッピンに自信がないのかよ!」
「…また嘘なんでしょ」
私はふんっと背中を向けた。どうせまた、からかわれてる…。
「今は、っていうか今までも本気だったんだ…!」
ナオは私の背中に向かって叫んだ。必死だし、一生懸命なのはひしひしと伝わってくる。私はナオと向き直った。
「冗談なんでしょう?いつもみたいに…」
ナオは何か言いたそうだったけれど、寂しそうに笑って
「…よくわかったな。当たり前だろ!」
と言った。
私もちょっと笑った。そして何も言わないで、一人で帰った。
「おはよう、音々ちゃん!あれ?メイクしてないの?」
「へぇ〜、今日はスッピンなんだね。肌めちゃめちゃキレイじゃん!」
「私はね、自分の素顔にも自信があるのよ。メイクなんかで隠す必要ないわ」
今日の私はスッピン。理由は簡単、ナオが素顔の方が好きだと言ってくれたから…。それに、自分の素顔に自信がないなんて私らしくないでしょ?
「音々…今日スッピンじゃん」
「そうよ、私は素顔も可愛いんだから」
「俺のため?」
「違うわよっ!!」
嘘、アンタのためよ!私が誰も好きにならなかったのは、きっと心のどこかにアンタがいたからよっ!知らず知らずの内にアンタと比べてたのよ…。そして、ずっとナオだけだったのよ…。
『好き』なんて気持ちはほんの赤ちゃんでもわかること…。
今更自分の気持ちに気付くなんて、私もまだまだ子供ね。でも、私は大人になるの。完璧だと思ってたけど、私には『恋する気持ち』が掛けていた。だから私は、これから完璧な女になるの!
「ねぇ、ナオ。…今日一緒に帰ってあげてもいいわよ?」
まだ、やっぱり自分から誘うなんて出来ないみたい。だけど、私の初恋は絶対成就させるんだから…!