第１７話 『全裸体育祭、開会式』-1
第１７話 『全裸体育祭、開会式』
『生徒の入場が始まりました』
耳元で囁いた教頭の声に応じ、南原は腫れぼったい瞼を寄せる。 いつの間にかグラウンドの片隅に吹奏楽部が陣取って、軽やかなマーチを奏でている。
ザッ、ザッ、ザッ。
曲に合わせて現れた少女たち。 腕を肩まで振り、水平になるまで腿上げを保ち、真っ直ぐ正面をむいて闊歩する。 腰から上と股から下は普通に上下運動しているのに、何故か腰だけが左右にキビキビ揺れているのは、一体どんな風に腰を使えばあんな動きが出来るんだろうか。 南原には見当がつかなかったが、眺めた印象としては、まるで尻振りダンスをしながら歩いているように見える。 そして尻以外がまっとうな行進をしているだけに、尻と尻の隙間からチラチラ覗く陰唇と肛門が、しかも肛門が心なしか広がって見えて、どうにもこうにもイビツに見えた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
改めて少女たちが織りなす見事に均整がとれた裸体の群れに南原は感心した。 １０代な成長過程にある少女特有の、僅かに固さが残る締まった肢体。 成人女性のようにでっぷり肉を蓄えた豊満な尻よりも、蒙古斑こそないものの、青く骨ばった尻の方が美しい。 肥大と伸張、色素沈着を繰り返した乳首を先端に仰ぐぶよぶよしたミルクタンクより、少しずつ脂肪を蓄え始めた饅頭にこそ食欲がそそられる。 もっとも現代少女たちにしたところで、旧世紀の同年代と比べれば格段に成熟してはいるのだが、社会人女性に比べればまだまだ肉体が大人しい部類だ。
ザッ、ザッ、ザッ。
少女たちは靴と靴下のみを身に着けて、それぞれ背中の肌に直接番号が記してある。 乳輪にそって赤、黄、青の輪が描いてあるのは、おそらくはチームカラーだろう。 髪が長い少女は紺の髪留めで括ったポニーテールに統一しており、凡そ半分が該当する。 南原が腰かけた来賓席の前を通り、グラウンドを一周し、グラウンド内の朝礼台前まで進んでからはその場足踏みに入った。 脚も疲れてくるだろうに、手抜きした足踏みは１つも見当たらない。 誰もが真剣そのものの顔付きで、尻だけブリブリ振りながら、奇妙な運動に集中する。
そうこうするうちに南原が陣取る来賓席に人影が現れ、三々五々埋まってゆく。
「失礼します。 Ｕ字幼年学校で校長を勤めさせていただいている『草居万子（くさいまんこ）』です。 本日は同じテントに御同席させていただき、光栄に存じます」
「どうも。 よろしくお願いします」
来賓は、教頭でも校長でもなく、まず南原に挨拶してから席に着く。 当然といえば当然だ。 南原の肩書きは、全男性中ではそれほど高い部類ではない。 それでも全人口ではいかばかりかとなると、上位０．０００１％より上の格に該当する。
「し……失礼します……！ Ｕ字町で……ゴクッ……ち、町会長をさせていただいておりますっ、に、『荷負亜奈留（におうあなる）』です……ほ、本日はお傍から観戦させてい、いただき、き、恐縮です……御同席を、おっ、お許しくださいませ……！」
「こちらこそ、よろしく」
中には緊張で言葉も出てこないのか、それとも行進の音にかき消されるような小さい声しか出せないのか、とにかくまともに挨拶できない来賓もいたが、南原は特に問題にせず、１人１人丁寧に会釈を返した。 顔色を伺いにきた人達は、一様に南原の対応に驚いき、戸惑いつつ自席に戻る。 まさか殿方が自分のような一介の女性に対応するなどとは夢にも思っていなかったんだろう。 確かに現代社会では男性が女性を黙殺するケースが圧倒的だ。 けれど、そうでない男性がいないわけでは決してない。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
「ぜんたーい、注目ッ」
おそらく生徒会体育委員長だろう、凛々しげな少女が指揮台に登って指示をだす。 マイクなしでもグラウンド全体に届くくらい、大きくて朗々とした声色だ。
「止まれッ」
ザッ、ザ。
ピタリ、号令通りに動きが収まり、一糸乱れぬ行進だった。
「やすめッ」
ササッ。
腕を背後で組み、ピタリ肩幅に脚を広げ、そのままグイと腰を落とす生徒達。 さっきまでチラチラと見え隠れしていた持ち物が、いまや全部揃って、正面に向け開陳された。 筋が一本通っているだけの幼いものもあるが、大部分は肉厚で発達した陰唇だ。 女性経験がない南原は、幼少の女性器がどのような変貌を遂げるものか知識でしか知らないが、それなりに使い込んでこそ発達すると聞いている。 ならば目下発達した陰唇を晒している学園の少女たちは、カリキュラムに沿ってきちんと膣を鍛えてきたと思われる。
体育委員長と思しき少女が檀上から下りるのと入れ替わりで、スピーカーから少女の声がした。 おそらく司会を担当する放送部員だろう。