♠愛しのあの娘♠-6
「ありがとうございました!!」
割れんばかりの拍手の中、7番目の技術者がプレゼンを終えた。
モデルは綺麗な歩き方でランウェイからステージへ戻っていく。
音楽はフェードアウトしていき、照明も落とされると、拍手も少しずつ鳴り止んでいった。
「……いよいよだね」
小声で俺に耳打ちする小野寺くんに、俺は1つ頷いてから生唾を飲み込んだ。
こっそり反対隣を見れば、古川さんも駿河さんもやけに神妙な面持ちでステージを見つめている。
じんわりと汗が滲んでくる手のひら。
自分がステージに上がるわけじゃないのに、心臓はバクバクと早鐘を打っていた。
髪をバッサリ切って、生まれ変わる松本の最初がこんなすごい所なんて、一体どんな気持ちなんだろう。
コンテストの為だけじゃなく、自分の為に髪を切った松本の登場を前に、俺は汗ばんだ手をギュッと握り締めていた。
ーー松本、ガンバレ。
刹那、大音響の音楽が耳をつんざいた。
天童さんがよく聴いているという、洋楽の女性アーティスト。
唸るギターに、複雑なメロディーラインを奏でるベース、腹の底まで響いてくる力強いドラム。
そして、そんな重厚なロックからは想像が付きにくい繊細で透き通る歌声。
ザワザワと観客が騒ぎ出した瞬間、ステージの真ん中にスポットライトが落ちた。
『キャーッ!!』
ものすごい歓声が湧き上がる。
隣の小野寺くんや古川さんの歓声すら打ち消すほどの黄色い声が、会場内に響き渡った。
腰に手を当て、片方の足だけを軽く曲げるポーズの松本。
漆黒のマーメイドドレスは裾の部分に向かうにつれ、少しずつスパンコールの量が増えて、まるで雪が降り積もるようなデザインだ。
ワンショルダーのそれに、ダイヤのように白く輝く石がたくさんついたネックレス。
いつもとまるで違う、クールな松本の姿。
大歓声も、ノリのいい音楽も、まるで耳に入ってこない。
ただ、研ぎ澄まされた視覚だけが松本を捉え、その美しい姿に言葉を失うだけだった。