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bitter bitter sweet
【コメディ 恋愛小説】

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♠愛しのあの娘♠-7

「里穂ちゃん、キレー!!」


ハッと我に返れば、古川さんが拍手をしながら大きな声で声援を送っていた。


「天野くん! 里穂ちゃん、絶対ショートの方が似合ってるねっ! 前の長い髪も可愛かったけど、ショートの方が断然いいっ!!」


小野寺くんも興奮のあまり、バシバシと俺の肩を叩いてくる。


痛いっつーの。と、思いつつ、自然と顔がにやけてくるのは、松本の姿の完成度の高さゆえか。


“恋”がテーマだという、今回のコンテスト。


他のモデルは、やはり女の子らしさを意識してか、フワフワのヘアスタイルに白やピンクや水色などの淡いパステルカラーの衣装が多い中、モノトーンをベースにした松本の姿はグッと大人っぽく見えた。


耳の上までバッサリ切ったショートヘアは緩く巻かれて、所々が銀色にブリーチされていて、松本のドレスとリンクしている。


ショートにするとは聞いていたけど、ここまで短くしていたのか、という驚き。


でもボーイッシュな印象は受けず、前よりも色っぽくすら見える。


「里穂ちゃんは、顔の作りが女の子らしいから、ベリーショートが逆に映えるんだね。輪郭も綺麗だし、首も長い。天童さんはきっとそれを見抜いていたから、里穂ちゃんにはショート以外考えられなかったんだと思うよ」


小野寺くんの言葉を聞きながらステージに目をやれば、松本がランウェイの先端に向かって歩いて来るところ。


その颯爽と歩く姿は、緊張感など微塵も見せず、余裕の笑みまで浮かべていた。


そして、先端まできた所で、再度ポージング。


たくさんのフラッシュを浴びる松本は、別世界の人間のようだった。


「ホラッ、翔平、カメラ! 早く!」


「わかってるって、焦んなっ」


古川さんから撮影係でも頼まれているのか、急かされた駿河さんは膝の上に乗せていた高そうな一眼レフカメラをステージに向けて、ピントを合わせ始めた。


小野寺くんも自分のスマホでカシャカシャと、ひっきりなしに松本を撮影している。


「天野くんは、撮らないの?」


古川さんが俺を見るが、静かに首を横に振った。


「俺は、いいっス」


俺はこの目にアイツの姿を焼き付けて置きたいんだ。


ずっと無理した笑顔ばかりを作っていた松本が、ようやく生まれ変わって、心の底から笑顔になっている。


そんな彼女の姿を、カメラ越しなんかじゃなく、この目で焼き付けておきたかったんだ。


刹那、ステージ上からふと彼女の視線がこちらに向いた、ような気がした。


ドキッと胸が高鳴り、キュッと唇に力が入る。


……俺の姿、見えてるのか?


次の瞬間、松本は控え目なウインクをして見せる。


そして、さらに激しく焚かれるフラッシュ。


ーーこんなに遠い客席のことなんて、見えるわけねえか。


小悪魔っぽい笑顔に、手を振りかけた手は、そのまま拍手に変わる。


目を細めて微笑んだ彼女は踵を返し、ランウェイを再び歩いてステージに戻っていった。


すげえ、綺麗……。


圧倒されたその美しさに、感嘆のため息が漏れる。


華やかなステージで見せた彼女の笑顔に、なぜか俺の目の奥はジワリと痛くなった。




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