♠愛しのあの娘♠-4
可愛くて、オシャレで、友達が多くて、金持ちで。
松本里穂という女は、完璧な女ってのがきっと俺らの持つイメージだった。
でも、俺に涙を見せたあの日から、彼女は確かに変わった。
弱さをさらけ出す強さを持った彼女。
このコンテストでショートにしたいとずっと主張していた天童さんに対して、最後まで難色を示していた松本が、今、その長い髪をバッサリ切り落としているのは、多分今までの人に素顔を見せられなかった自分との決別を意味してる、と思ってる。
それほど、ステージ上の松本は晴々とした表情で、天童さんのカットに身を任せていた。
『はい、時間そこまで!!』
司会の女性の声で、ステージ上の技術者達の手がピタリと止まる。
後はそこから技術者はモデルから離れ、そのままプレゼンに入るのだ。
照明が暗くなり、その間にスタッフらが落ちた髪の毛を素早く集めているのだろう、黒い影がケープをまとったモデルの間を動き回っていた。
「さ、いよいよプレゼンだね」
小野寺くんが暗がりの中でもハッキリと分かる、ワクワクした視線をステージに向けていた。
小野寺くん曰く、この後は、一人ずつスポットライトがモデルに浴びせられ、技術者のプレゼンに合わせて、ファッションショーのごとくモデルがランウェイを歩くらしい。
「里穂ちゃんは8番目かあ。どんな衣装なんだろ」
古川さんもソワソワしながら駿河さんに話しかけてはステージを見たりと落ち着かない。
モデル達はずっとケープを纏っていたので、変身後のプレゼンタイムは、このヘアコンテストの一番の見せ場なのだ。