Holiday's CHOCOLATE-2
俺は姉ちゃんと三つ違うんだけど、俺が生まれた瞬間から姉ちゃんは、俺をどうするか決めていたに違いない。
俺が0歳の時はさすがに何もしなかったようだが、歩きだすようになると態度が豹変した。まだ言葉も理解できない赤ん坊に「リモコン持ってきて」とか「漫画持ってきて」などと言って、自分は少しも動こうとしなかったそうだ。この辺は今と変わってないだろ?
幼稚園のバレンタインデーは何もくれなかったくせに、ホワイトデーはちゃっかり金を巻き上げ、異議を申し立てようものならボディに痛烈なパンチをくらい、それによってあざが出来たときは「転んだことにしな」と脅した。まだ小学生だぞ?普通の小学生こんなこと言うか?
姉ちゃんは中学生になると、彼氏をとっかえひっかえしていた。振るのはいつも姉ちゃんなのに、姉ちゃんは自分で別れを告げることは絶対に無かった。当時小学生だった俺は便利な奴だったんだろうな。待ち合わせ場所に行かされ、「姉ちゃんが、オマエの寝る時の顔がカエルに似ていて気持ち悪いから別れてくれ、だって」などと言わされた。言われた彼氏は訳がわからない。昨日までそんな素振りは見せなかったんだから。どうやら姉ちゃんは少しでも気に食わない所を見つけると、とことん嫌いになるタイプらしい。ほとんどの男はそう言われると虚ろな目をして帰っていくのだが、厄介なのは、俺に怒りをぶつける奴が稀にいることだ。鼻血を垂らして家に帰ると姉ちゃんは「やっぱりアンタに頼んでよかった」と美しくほほ笑むのだった。
俺が中学生になるととうとう、姉ちゃんは俺を足に使うようになった。もはや召使状態になり今に到る。
「ちょっと!!何ボーッとしてんの。ねえねえ、コレとかどうかなっ?」
「オマエは露出狂か!」
「はぁ!?」
「いや…セクシーでいんじゃないかなっ」
「やっぱりぃ?テツもそう思うっ!?さすが姉弟。趣味もピッタリ♪じゃあ、コレ買ってくるねっ」
…だったら俺に聞くなぁーっ!!最初から買う気だったんじゃねえかよ!!
姉ちゃんがレジに行ってしまったので、俺は外で待っていようと出口に向かって歩いていた。丁度その時、店の前を一組のカップルが通り過ぎていった。
「あ…!!」
女の方の横顔を俺が見間違うはず無い。コノだ!俺は急いで外に出た。数メートル先でコノが楽しそうに俺の知らない男と歩いている。すぐに後を追い掛けたが、人込みに紛れてしまいなかなか見つけられない。この通りは小さな洋服店や雑貨店が密接している。もし、どこかの店内に入ってしまっていればまず見つからないだろう。
…何で、コノ子が…。
「テツ?哲希っ!!ホラ、帰るよっ!!さっさと愛車出して」
「ありえねぇ…」
「は?」
「くっそ…!乗るならさっさと乗れぇ!!そのかわり荷台から落ちても知らねぇからなっ!」
俺は漕いだ、漕いだ、漕いだ。誰だあの男はっ!?純粋無垢なコノを誑かしやがって!!コノはオバカさんだから「道教えてください」なんてこと言ったらすぐ着いてっちゃうんだよっ!!そんなコノの優しさに付け込んで…最低な奴めっ!!絶対に見つけだして、俺がケリ付けてやらぁ!!!!
「ぅおおおああああああああああっっ!!」
喉が切れるんじゃないかというくらい、俺は叫んだ。明日…明日、コノ本人にアイツが誰なのか聞いてやる…!
「テツ…アンタって叫ぶの好きなの?行きも帰りも叫んでるし」
姉ちゃんの声が全く聞こえないぐらい、俺はコノの隣にいた名前も知らない男に憎しみを抱いていた。
俺の苦悩は続くっ!!