♥勝手に浮かんでくる男♥-7
「里穂ちゃん?」
ふと我に返ると、隣でいつの間にかレジの仮締めをしていた小夜さんが心配そうにこちらを見ていた。
見透かされたようなその瞳に、思わず目を逸らしてしまう。
「あ……っと、何ですか?」
いつもの笑顔を作って見せたものの、小夜さんは神妙な顔を崩さない。
「うん、元気がないように見えたから。ここ最近、ずっとそんな感じでしょ? 何かあった?」
小夜さんにしては鋭い所に切り込んで来て、あたしは背中に嫌な汗が滲んでくる。
何か、適当な理由……。そうだ。
「ああ、それ、きっと連日の打ち合わせで疲れてるかもですかね」
「打ち合わせって、例のヘアコンテストの?」
「そうそう、打ち合わせって、美容室の営業が終わってからするから体力的にしんどくて」
「そっかぁ。大変なんだね」
「でも、楽しいですよ。店長さん達もみんないい人ばかりだし」
「だろうなぁ。まさか、店長さん達がオネエだったなんてねー」
会話の方向が逸れてきたので、内心安堵のため息をつく。
こないだの天野くんがお店に乗り込んだ事件の真相を、小夜さんも知った今、ヘアコンテストの話をすれば、いつもこんな流れになる。
天童さん達の強烈なキャラクターに感謝感謝だ。
いや、それだけじゃない。
打ち合わせは大変なんて言ったけど、今のあたしには心の支えにすらなっている。
天童兄弟のオネエな会話。ヘアスタイルやメイク、ファッションの話や時には恋の話なんかも。
彼らと過ごす時間は本当に楽しい。
だから、家に帰って一人になった時がとても辛くなる。
帰りが遅いから、夕飯はラップしてあるテーブルの上。
あたしの分とパパの分。
それを見ただけで、パパはまだ帰ってこないとわかる。
きっと、不倫相手と一緒にいる、そういう現実を突きつけられてしまうのだ。
せめてあたしがママの側にとも思うけど、パパの秘密を知ってるあたしが、ママの前で平然としていられる自信なんて、きっとない。