〈破断される鶴翼〉-9
『なあ麻衣……この旅館にもな、迷惑なお客さんは来るんだ……山菜取りのジジイとか、野鳥を撮影しにくる写真家とかな……だから口に猿轡をしてるんだよ……なあ?』
「………??」
未だに背後からしか声は聞こえてこないが、その声色で男の表情を察する事が出来た。
小馬鹿にして舐めきっている……そしてニヤニヤと笑っている、と……。
『日が暮れて、そんなジジイも来なくなりゃあ悲鳴の一つや二つはどうってコトねえ……ヒヒヒ!分かるか?あと少ししたら思いっきり叫んでもよくなるんだ……いま言いたいコトを溜め込んで、夜になったら俺達を口汚く罵れ……怒鳴り付けて唾を吐きかけろ……俺達も気分が晴れるまで姦し捲ってやるからよお……』
「…………ッ!!!」
この旅館に集まってくる男達の異常性に、麻衣は恐怖を新たにした。
助けを求める女性の悲鳴は男達からすれば甘美の歌声であり、その上で、ある種の憎しみを持って凌辱をするのだと。
異性に好かれる努力もせずに己の劣等感だけを膨らませ、その腹いせとばかりに旅行客を監禁し、凌辱をする。
先ほど喋っていた『手っ取り早く姦せる』の言葉がそれを表しているし、であるならば身勝手も甚だしい鬼畜共である。
『麻衣…なあ麻衣……俺達はオマエに罵倒されたいんだ……ヒッヒヒヒ!だから大人しくなるんじゃ……ねえぞッ!』
「んぶぐッ…!!??」
例え見えていなくても、この男が“何をした”のかは分かっていた。
それは男性器と女性器の結合であり、己が快楽のみを求める不合意の《繁殖行動》だ……。
『ま、街で俺が声を掛けたら……オマエは俺についてくるか?……どうせ汚い物でも見るような目で俺を……ヒヒッ…違うかあッ?』
「ん"ん"ッ!?ん"む"う"ッ!!」
ナンパするような男を気に入るほど、麻衣は〈安い女〉ではない。
甘い言葉で誘って美味しい食事を楽しみ、そしてその後は……?
セックスによる快楽に価値を見出だしはしない麻衣からすれば、ナンパする側もされる側も、自分とは決して交わりはしない異世界の人種だった。