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《夏休みは始まった》
【鬼畜 官能小説】

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〈戻れない夏〉-4

「もう…〈先輩〉って付けなくていいってば」


そんな里奈の密やかな感情を、麻衣は知らないではなかった。
いや、慕ってくる後輩を、実は可愛いと思っている。

これまで何度かショッピングに出掛けた事もあったし、恋愛相談だって何度もされてきた。

充分に異性を惹き付けられる魅力を持ちながら、見た目通りの純朴さと生真面目さが仇となって恋愛の失敗を繰り返している。
その不器用と愚直がもどかしく、しかし、そこが可愛くて堪らなかった。

そんな駄目っ子だからこそ麻衣は里奈を気にかけ、何かある度に声を掛け、時に叱り、時に励ましてきていた。

それは端から見たなら仲の良い姉妹のようでもあろう。



「は、跳ねる…ッ…うわ…わわッ」

「ちょっとしたアトラクションみたい。馴れたら割りと面白い…かも…?」


サードシートの二人の胸の対比は、セカンドシートの二人ほどは離れてはいなかった。
タプタプと揺れ動く胸は真夏のもので、ポンポンと軽快に弾むのは奈々未の胸。
控えめな膨らみに向けられる真夏の視線は、“それ”を羨ましがる里奈の感情とは意を同じにはしないものだ……。


「あ…!?もしかして……見えてきた?」

「ふう〜…今度こそ着いたあ」


悪路は人工的な砂利道に変わり、雑木林は客人の登場に退いたように開けた。

山々の谷間に挟まれるように、目的の場所である瓦屋根の二階建ての古ぼけた旅館が、安堵と虚脱に溢れる四人の瞳に飛び込んできた。


『皆さん本当にお疲れ様でした。お荷物は私共がお運び致しますからどうぞお入りに……』


送迎のミニバンから降りるにも、やはり麻衣が先頭となっている。
駅でも見た光景がここでも見られ、その列は藍染めの暖簾を潜って旅館の中へと進んだ。


『お待ちしておりました。ささ、こちらの方で皆様の氏名をご記入くださいませ』


淡い桃色の和服を着た年配の女将は、四人に深々と頭を下げながらフロントへと促す。

何故チェックインで全員の名前を記入しなければならないのか分からなかったが、とりあえず四人組は左正面にあるフロントまで進み、それぞれに記入した。


『お疲れになられたでしょう。皆様の今夜のお部屋にご案内致します』


女将は左手に見える階段に四人を招いて、二階の部屋へと案内する。
そして肌の衰えを隠せない仲居二人が、四人の荷物を抱えてついてきた。


『本日宿泊されるお客様は白岩様達だけでございます。ごゆるりとお過ごしになれるかと思いますよ?』

「え?てコトは私達の貸し切り?」

「ヤバいよ。温泉独り占めじゃない?」


人混みを嫌って選んだ山間の旅館は、自分達だけの宿泊施設として存在している。
廊下は軋んだりせず、空気に埃っぽさや変なカビ臭さ等もない。

想像を裏切る堅牢さと清潔さ、そして誰にも気兼ねせずに過ごせるという解放感に、四人は鼻歌混じりの軽い足取りで女将の後をついていく。




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