第1話『閑話休題』-2
『ウサ・ユナイテッド』は、旧北アメリカ大陸を一纏めにした俗称だ。 この地にかつて存在した超大国は、『ニホンによる女性の人権侵害を糾弾する』という寝言と共に、新世紀初頭に『ニホン』と核なしの全面戦争に突入した。 ちなみに、いまでも正式には交戦途中とされている。 もっとも勝敗は付いたも同然で、首都『ホワイトハウス』は交戦後2週間で陥落した。 国家シンボルの『ジユウノメガミ・スタチュー』は再彫刻を施され、スカートから手をまさぐって女の持ち物でマンズリする『ジユウナオナニー・スタイル』と名を改め、手を高々と掲げながら絶頂する姿を全世界に晒している。 大陸各地でゲリラ活動が盛んではあるが、『ニホン』は『コクレン・ガバメント』の旗印の下、着実に制圧地域を拡げており、完全制圧もそう遠い未来ではないだろう。
『サッカー・サンバ』は、旧南アメリカ大陸の国家が政治経済共同体をとることで生まれた。 『ニホン』の統治システムを進んで受け入れたため、旧世紀の窮乏に慣れた姿が一辺し、今では世界第二の経済圏へと成長した。 『ニホン』とは『シュウコウ・トリーティ』を締結し、官民人事交流や交換留学を盛んにしている。
かつて白人による迫害で原住民が絶滅した『アメリカ大陸』。 今では『2号大陸』の名を改め、有色人種が主体になって生活している。 核大過の被害が比較的少なかったことに加え、農作物、天然資源が自給自足できる点を追い風にして、かつての十分の一に人口を安定させ、堅実な共同体を築いてきた。
『オージー・コンティネント』は、旧オーストラリア大陸――現在の名前は『3号大陸』――及び周辺の島嶼国家が足並みを揃える。 海洋資源、農産物が豊かなものの、四方の海がすべて『ニホン』の潜水艇で封鎖されてしまったので、自活の道は有り得ない。 輸入も輸出も、すべて『ニホン』が制限しているため、『オージー・コンティネント』自体は『ニホン』と『チョウコウ・トレード』する属国として、辛うじて国家体制を保っている。
『サバンナ・ブラック』は、旧アフリカ大陸、即ち『4号大陸』でくらす部族単位の生活集団を総称している。 一応国家はあるものの、旧世紀末の核大過を経て、先進国が関わる余裕を失ったことで、戸籍も人口動態も不明になった。 となると選挙権の発効も住民票の発券もできず、帰結として税金が入らなくなる。 国家が実質的に霧消するのは必然といえた。 今ではかつての部族、氏族ごとに広大な野山を駆け巡っている。 人口が『核大過』によって旧アフリカ大陸が許容できる適性レベルに減ったことや、気候変動で水資源が潤沢になった影響もあって、各集団は世界で最も自然との共存に近い暮らしを営んでいた。
『ニホン』の牝は、全世界で最も優秀な『牝』とされている。 そして『学園』は、『ニホン』の牝が歩むエリートコース、と位置付けられている。 ということは『学園』を卒業した牝生徒は、原則として最も格が備わっている『ニホン』の『カンサイ・デストリィクト』や『シコク・ディストリクト』において就業することになる。 仮にDランク認定しか得られなかったとしても、例えば『オージー・コンティネント』で『牝家畜』になるよりも、『ホッカイドウ・ディストリクト』の最新畜舎で飼育されることが多い。 ちなみに最も優秀で選ばれた牝であれば『アワジ・アイランド』で働くこともあり得るが、そうなる確率は極めて低く、『あくまでも可能性がゼロではない』というレベルに過ぎない。
結論として、『ニホン』で育った牝が『サウス・ペニンシュラ』や『ドーピング・フェデレイション』といった外国にゆくことはほとんどない。 けれど可能性はゼロではなく、優秀な『ニホン』産の牝が外国で稼働するケースは、例外的に2つある。
1つは外国の施設に職を得るケースだ。 このケースには『機械の備品』として、外国の農場、工場に配備されるケースや、家畜として外国で飼育されるケース、交換留学するケースを含める。
もう1つが軍隊だ。 『ニホン』が単独で動かせる『ジエイタイ・アーミー』や、『コクレン・ガバメント』の指揮下で行動する『ピーケーオ・アーミー』に所属すれば、世界各地の紛争地域が活動場所になる。
ところで『ニホン』全国の『学園』で過ごす生徒、特にAグループ生にとって、2学期は進級が難しい。 全員必須の『インターンシップ』で『内定』を貰って始めて卒業できるのだが、全国平均内定率が10%を超えることはないためだ。 そんな中で唯一といってもよい、高い内定率を維持する組織がある。 『ジエイタイ・アーミー』……陸、海、空、宙軍からなる、構成員6万人を擁する巨大組織だ。
現在『2号大陸』での内戦に人員の大半を割いているが、このたび『イーユー・ユニオン』で生じた事件により、新たな出兵が予定されている。 といっても急に構成員は増やせないため、『インターンシップ』による新兵募集が、大きな枠で行われている。 普通は人気がない『ジエイタイ・アーミー』なものの、どうしても内定が欲しい場合、過酷な職場と承知でエントリーするAグループ生が、ごくごくたまにでてくるわけで――史性寮【A5番】が提出したエントリーには、『第一志望・ジエイタイアーミー』と、筆圧強くしたためてあった。