♥偏見を持つ男♥-7
「……松本、松本」
そんな事を考えていたせいか、天野くんの声に気付かなくて、我に返った時には、アイスコーヒーの補充を終えた天野くんがいつの間にか隣に立っていたのだ。
「な、何!?」
驚きのあまり、小さく身体が飛び跳ねて彼を見れば、思いつめたようなやけに真面目な顔。
あ、なんかこの表情見覚えがある……と脳裏に浮かんだのは、こないだあたしに告ってきた時の、あの時の天野くんと同じだった。
「……お前さ、今日バイトが終わったら何か予定入れてんの?」
しばらく言い淀んでいた彼がようやく発した言葉に、あたしは首を傾げる。
「何よ、いきなり」
「いいから、どうなんだよ」
「……予定、入れてるわよ」
あたしの答えに、天野くんの表情は険しさを増した。
それが、何だかあたしを怒っているみたいで、バツが悪くなって目を逸らしてしまう。
……何、この迫力!
「その予定、断ってくれ」
「はあ?」
「いいから、その予定断れよ」
「だって……無理だよ。小野寺くんが迎えに来るんだもん」
小野寺くんの名前を出すと、彼の少し濃い眉がキュッと上がる。
「だから、それを断れっつってんだよ!」
「ちょ、ちょっと、何なのよ……。小野寺くんとは今まで何度も一緒に遊んでいたし、別にそんなの……」
「あの怪しい男がいても、か?」
「あ、怪しい男?」
「俺……さっき聞いちゃったんだよ。小野寺くんとさっきの客の会話! 多分小野寺くんは、お前をあの男のとこに連れて行くつもりなんだぞ」
それを聞くとあたしはホッとしたように身体の力が抜けた。
なんだ、天野くんもコンテストの話、聞いたんだ。だったら話は早いじゃない。
「天野くんも話聞いてたんなら、それは別に問題ないってわかるでしょ? それに迎えに来てくれるってのに今さらドタキャンなんてできないわよ」
小野寺くんと二人でいることに腹を立ててるなら、怒る理由はわからなくもないけど、コンテストのモデルを引き受けたくらいでこんなに怒るなんて、ほんと、彼氏でもないのにウザいなあ。