第19話『舐め奴隷たち』-1
19話 『舐め奴隷たち』
寮監のバースディパーティーは、寮生と寮監どちらも折れないまま、日付が変わるまで続いた。 途中鞭を納めたのは、消灯、就寝を控えて場所を中庭から食堂に移した間くらいだ。 つまり、寮監は疲れを見せず、勢いを落すことなく鞭を振るい続けたし、寮生は寮生で、手を変え品を変え連続して指導を乞い、相次ぐ鞭に耐え続けた。 とはいえ日付が変わる頃には、双方ギリギリに追い込まれているのが内実だった。 寮生は、いくら休憩を挟むとはいえ、持ち物やアヌスまで何度も叩かれるのだから、消耗するのはいうまでもない。 一方寮監は寮監で、一切休憩なしに鞭を振るわされるものだから、疲労と筋肉痛であっぷあっぷだ。
総合的に判断すれば、人数が多い分寮生の方に分があったかもしれない。 このまま続ければやがて寮監が降参したかもしれない――そんな中で延々と続く鞭うちに幕を下ろしたの、12時5分前に順番が回ってきて、自身20周目の鞭打ちを終えた【A2番】だった。
『9号教官! お誕生日おめでとうございます!』
肩で息をしている寮監に、その場全員で『おめでとうございます!』と唱和する。 呆気にとられる寮監を前に、【A2番】が話しかけた。
『寮監が得心いくまで鞭でぶてるように、みんなして色々誕生日プレゼントを考えたんです。 で、せっかくなので、今日1日、A・B生全員のお尻を心ゆくまで叩いて貰おうと思って、みんな揃ってお願いにきました。 本当はもっとぶって欲しいんですが、日付が変わると誕生日が終わってしまいます。 ですからここをもってプレゼントを区切り、みんなの気持ちを歌にします。 お聞きください。 せーのっ』
『『ハッピバースディ、トゥー、ユー……ハッピバースディ、トゥー、ユー……ハッピバースディ、ディア、リョウカン〜……ハッピバースディ、トゥー、ユー〜……』』
旧世紀の言葉で誕生日を祝う、かつて定番とされた曲。 いつのまにか食堂に集まったCグループ生も合わさって、深夜とは思えぬ賑わいだ。 歌い終えると、
パチパチパチ……!
全員が笑顔でスラップする。 こういうイベントは勢いとノリで、普段寮監が嫌いだった寮生ですら、何故か全力で拍手してしまうから不思議なものだ。
パチパチパチ……。
「はいはい、もう終わり、もう十分!」
額に汗を滲ませた9号教官は、やがて止む気配のない拍手を両手で制した。 寮監が浮かべた表情は――怒りではなく、苦笑い。 それも『苦り切って笑うしかない』ものだった。
「……『ありがとう』、何て言うとおもったら大間違いですからね。 まったくもってくっだらない……ふうっ。 とはいえ、いつまで続くかと心配したけど、ちゃんと終わり時を決めてた点だけは『流石』といっておきましょう。 Aグループの5人がどうせ首謀者なんでしょうが、これも立派な寮の行事です。 【A2番】さんが仕切っているようですから、貴女、明日の夕食後、改めて報告にくるように。 今日はもう遅いから、みんな寝なさい。 就寝時刻を過ぎた件を含めた諸々違反は、私のあずかり知らぬことです。 ただし解散後1分以内に寝ていないモノは特別指導対象ですから、そのつもりでね。 ……解散」
肩を竦めて9号教官が『解散』を告げると、わっ、クモの子を散らすように全寮生が部屋へ駆けた。 本気か冗談かはさておき、自分たちが犯した規則違反――就寝時刻違反や罪状の虚偽申告――を有耶無耶にしてくれるなら、気持ち良く従えるというものだ。 寮生から先にイタズラの矛を収め、寮監も柔軟に対応して余計なチャチャを控える結果は、結果として限りなく『引き分け』に近いといえる。 こうして、寮生全員の身を削ったイタズラは一応穏便に幕を下ろしたのだった。