♠狙われた女♠-3
うちの店は15時からはちょっとしたピークになる。
そのため、レジとドリンクは二人体制になるので、聞くならこの間にしようと、スタッフルームを出るまではそう意気込んでいた。
だが、それがなかなか実行出来ない。
珍しく客足もまばらで、小野寺くんに聞く絶好のチャンスが目の前に転がっているというのに、俺はそのチャンスボールをさっきから取り逃がしてばかりいた。
洗い上がったスプーンの吹き上げをしながら横目でコッソリ小野寺くんの様子を探ると。
彼はコーヒーマシンに豆を補充したり、アイスコーヒーを補充したり、次から次へと仕事を見つけてはテキパキ動いている。
その働く男の横顔は、俳優のようにカッコよくて、同性の俺から見てもため息が出るほど。
こりゃ松本も浮かれるわけだよなあ、と、小野寺くんと会話している時のアイツのハシャギようを思い出した。
駅で小野寺くんの隣に立った松本のニコニコ顔。
それはもうお似合いの美男美女カップルで、付き合っているとすれば誰も異議申し立てなんてできないほどだ。
いや、お泊まりするくらいだから、付き合ってんだよなぁ……。
状況証拠はバッチリなのに、ちゃんと当人の口から確かめないと気が済まないのは、悔しいけれど、やっぱりまだ松本のことを好きだからで。
それなのになかなか小野寺くんに話を切り出せずにいる自分に歯噛みしていると、アイスコーヒーの補充を終えた小野寺くんとバチッと目が合ってしまった。
「う、あ、あの……」
どもる俺にニッコリ笑いかける小野寺くん。
「なんか、今日は暇なんだよな」
スッと俺の横に立ってフロアを一瞥するその姿からは、すんごくいい匂いがした。