♠狙われた女♠-15
「あの子なんだ、松本さんって」
男から『松本』というキーワードが聞こえてきて、一瞬立ち止まる。
そこでつい、取った行動は、床にしゃがみこむというもの。
真ん中が磨りガラスの仕切りで仕切られたカウンター席がそばにあって、俺はつい、その陰に身を隠してしまった。
ゴミを拾うふりをしながら、全神経は耳に集中する。
ザワザワ騒がしい店内だけど、男の声も小野寺くんの声も、悔しいくらいイケメンボイスなので、その会話を拾うのは案外容易かった。
「そう、吾郎さんから見て、どう?」
男の名前は吾郎っていうのか。もしかして、松本との関係を相談しているとか?
一人で考えを巡らせている傍で、会話はさらに進んでいく。
「うん、話で聞いているよりかなり可愛いじゃない。いい感じ」
「吾郎さん、気に入った?」
「うんうん、もう一目で気に入った!」
「じゃあ、あの話、松本さんにしとくから、口説くのは自分でやってね。ちゃんと口説き落とせたら、あとは吾郎さんの好きにしていいから。結構いい身体してるし、あの娘」
「へぇ、楽しみ」
ゴミを拾うふりして動かしていた手が止まる。
……松本を口説き落とせたら好きにしていいって、どういうことだ!?