序章-9
食器乾燥機が終わったメロディーがリビングに響いていた。おっぱいに顔を埋めて荒い呼吸で若い匂いを堪能していた僕は、悪戯な目線でエレナを見上げて身体を離していた。
「ずるいわよ。そんな目で見ないで」
悪戯された身体を誤魔化すようにタンクトップを元に戻して下着の股間部分を絶妙な裾の付け根から覗かせていた。それこそずるいだろ。と声を出しそうになってしまったが、僕に構うことなくダイニングに向かって歩きだしていた。ブロンド色の長い髪をなびかせてタンクトップの裾から生々しいお尻が上下に揺れていた。圧倒される若さと色気だった。
「缶ビール取ってくれるか?」
「小瓶のほうが美味しいわよ。どっちにする?」
小瓶を指に挟み、もう片方の手に缶ビールを載せて笑顔で問いかけてくれていた。可愛い笑顔に見惚れながら、瓶ビールでOKだ。と伝えてその場をやり過ごしていた。
食器を片付け終えたエレナは僕の目の前に腰を下ろして、生ハムとジンジャーエールを持って飲んでもいい?と確かめていた。
「エレナ、食べ物と飲み物は全て自由だ。わたしに断る必要はない。分かるか?」
「優しい人でわたしは本当にラッキーね。凄く嬉しいわ」
生ハムを手に取り、横を向いてジンジャーエールを飲み始めていた。こういう気配りをさらっとやってのけるエレナに関心してしまっていた。
「エレナ、その髪は染めてるのか?」
「本物よ。子供の頃はブリュネットが強かったけど大人になるとブロンドが増えてきたわ」
明らかにイタリアの血統を証明するブロンド色だった。アジア人には不可能な色彩だ。それでも股間はブリュネットが強い辺りは、やっぱりハーフなんだろうと納得してそれ以上何も触れないであげていた。
「日本語はどうやって覚えた?」
「引き取って貰った時、最初に勉強させられたのよ。日本語しか認めてくれなかった意地悪なおばさんに今は感謝しないとダメね」
「引き取って貰ったって言っても、その時すでに16歳なんじゃないのか?」
「違うわ。わたしは11歳で家から追い出されたわ」
幾つかの事象が一つに繋がり始めていた。まだ子供だった頃のエレナは辛うじて母親寄りだったのだろう。それでも大人になるにつれて明らかに身体が変わり始め、その日を迎えてしまったのだろう。壮絶だったに違いない幼少期に胸が詰まる思いだった。
「違う。わたしは幸せよ。違うわ」
絶句した僕を質すようにめずらしく声を荒げていた。触れなくていい部分にまで踏み込んだ自分を恥じていた。
「エレナ、分かった。すまなかった。わたしが間違っていたんだね」
「そうよ。家を追い出されたけどおばさんは、自分の子供のように接してくれたわ」
不貞腐れた子供のように立ち上がって、小瓶のビールを持ってきて、自由にいただくわよ。と口を尖らせていた。微笑ましい光景だった。恋人といる錯覚を感じながら酔いに任せて語るエレナの長い話に付き合ってあげていた。
「やだ、もうこんな時間ね。やだぁ、わたし、凄い飲んでるわ」
テーブルに転がる空き瓶は10本近くは並んでいた。酔って饒舌になった自分を恥じるように転がる瓶を片付け始めていた。
「エレナ。まずスウェットを履きなさい」
「いゃぁ!ずるい、もっと早く教えてよ」
股間を両手で隠すエレナは、頬を真っ赤に染めて恥じらっていた。タンクトップを引き延ばして股間を隠しすエレナは、完全に21歳の女の子に戻ってしまったようだった。
「適当に片付けたら、シャワー浴びてから寝なさい。分かったね」
「ありかとう。今日はとても楽しい初日だったわ。明日からは真面目に働くね」
そう言って僕の頬にキスをしたエレナは、言われた通りに片付けてシャワー室に消えていった。エレナとの初日に十分な手応えを感じた僕は、シャワーを上がったエレナのためにリビングの照明を落としてランタンを燈して寝室に移動してあげていた。初日とはいえ相当な時間を拘束した自分に少し反省しながら心地良い睡魔に落ちるように眠ってしまっていた。