宴 〜肛虐〜-2
−智佳の握る、胤真の秘密。
事の起こりは、十年前。
この街に引っ越してきた分家の草薙一家が主家の草薙家へ、家族総出で挨拶に伺った事からだ。
主家の草薙夫人が自慢たらしく智佳に引き会わせたのは、見るからに利発そうな一人の美少年。
『たぁくの胤真ちゃんはそれはもう賢くて美しくて、自慢の息子で……べらべらべら』
そのまま思い出したら原稿用紙が百枚埋まりそうな勢いでまくし立てられて辟易する智佳を、胤真はそっと部屋から連れ出してくれた。
そこで智佳が『ああ、何て優しいお兄ちゃんなんだろう!』の一言でこの一件を片付けてしまえば良かったのだが。
智佳は敏感に感じ取っていた。
このお兄ちゃんが優しいだけの少年ではなく、裏に悪魔のような素顔を巧妙に隠している事に。
そして一桁台の年齢のお子様が、嘘をついたりして気付いた事実を塗り込めて隠すなんてテクニックを弄するはずもなく。
嫌悪感も露に、智佳は言い放った。
『お兄ちゃん、嫌い』
この一言で、利発な胤真少年は一つ違いの幼い再従姉妹が一瞬にして自分が親にもひた隠しにしている本性を見抜いた事を、悟った。
−これが、智佳が握る胤真の弱みである。
「以来十年間、ほぼ毎日私を監視し続けるその根性は評価するけれど……」
「俺に忠誠を誓わないお前は、野放しにしておくにはあまりにも危険な存在だからな」
「忠誠!?それって、あの人の事!?」
智佳の脳裏によぎるのはここ四〜五年の間胤真の世話を任されている、胤真の父親の秘書の存在だった。
胤真が何をしても許し、事細かに世話をし、智佳に対して胤真のいない所で露骨な敵意を向けてくる。
「冗談!!」
胤真の握る、智佳の秘密。
一つ目は、夏のかなり危険な体験。
二人が、小学生だった頃の話だ。
今年は何かイベントをと発奮した教師陣が、五、六年生の希望者を集めて夏休みに一泊二日のキャンプへ行く企画を立てた。
智佳は休みたかったが、当時から学区が同じ(この頃は、今よりも平和な関係だった)胤真に言いくるめられて、渋々参加した。
申し込み・当日集合・バス移動・レクリエーション・食事作り……等々。
オーソドックスなイベントをこなし、夜には定番の肝試し。
ここで、悲劇は起こる。
何の因果かくじ引きで、智佳と胤真はペアにさせられた。
智佳はびくびくしているのに、恐くも何ともない胤真は目的地までずんずんと歩いていく。
智佳はぴったり引っ付いて、胤真の後についていった。
その首筋をこれまたオーソドックスな脅かしアイテム、生温い蒟蒻に襲われてしまったのだ。
「−−−っ!!?」
声すら上げずに智佳は胤真に抱き着く。
予備動作も何もなしでいきなり抱き着かれた胤真は驚いてバランスを崩し、二人は揉み合うようにして転がった。
「いきなり何す…る……って……」
自分の下半身に広がる生温い感触に、胤真は絶句する。
しょわしょわしょわ〜っ……
智佳は恐怖のあまり、失禁してしまっていたのだ。
胤真は泣く智佳をあやしつつ失禁の後始末をし、二人揃って下半身が濡れてしまった事への言い訳を捻り出した。
−そして、その夜。
小学五年生にもなっておもらししてしまったという恥辱から情緒不安定な智佳の傍で、胤真は浅い眠りを貪っていた。
キャンプは男女別だったが、一人だけ元気がなくなってしまった智佳を(下半身はキャンプへ戻る前に水で流した上に胤真の言い訳が効いて真の理由が分からない)引率の先生方が心配し、特別に計らって二人だけ別の部屋にしてくれたのである。
「ねえ、胤真……」
胤真が完全に眠ってはいない事に気付いていたらしく、小さな声で智佳は言った。
「ん?」
「……ごめんなさい。迷惑かけて……」
「血の繋がった再従姉妹だろ。恐かったんだから、仕方ないさ」
「うん……」
ふわっと甘い匂いがして、智佳が寝ている胤真の隣に横たわる。
胤真が目を開けると、超至近距離に智佳の顔があった。
震える吐息を、嗅ぎ込む。
……甘い。
「智佳……?」
ただならぬ気配に、胤真は身じろぎした。
「胤真……」
智佳は、胤真に体を預ける。
甘い……甘い匂いが、濃くなった。