赤いワンピースの女-2
「どうなってるの?」
「君、いま私よりバイクの方に意識が行ったでしょ?別の言い方をするなら、私に興味を無くした。」
そう言えば、ミユキちゃんから出たときもよそ事考えてた。
「バイクに負けるなんて、私、悔しい。中まで入ってきたくせに。」
「ちょ、誤解されるじゃないですか。」
「五回されるですって!なんてね。というわけで、入り方と出方、分かったわね。」
「あー、はい。」
「まあ、まだまだヘタクソだけどね。」
「う…。」
「心配しないで。言ったでしょ?教えてあげるって。私のカラダに入ったり出たりしなさい。練習させてあげるから。」
ど、どっちの入ったり出たりかなー。
「さあ…いらっしゃい、私の中に…。」
そのあと、本当に何度も出入りさせてくれた。七回を越えた頃だろうか、おねえさんが言った。
「あ、今の分からなかった。巧いわよ、坊や。おねえさん、満足よ。」
「あの、わざと卑猥な言い方してますよね?」
「バレたか。君、いちいち赤くなっておもしろいから。」
「はあ…。」
「さて、君は覚えがいいから、予定外だけど次の段階に行きましょう。」
おねえさんが消えた。そして、俺は歩き始めた。自分の意志とは関係なく。
「あれ?あれれ…。あの、昨日は逆だったんですけど。入った俺は何も出来なくて、見てるだけ。」
『憑依力がまだ低いから。感覚共有と感情共有しか出来ていないのよ。行動を支配するまでには至っていない。』
「何ですか、それ。」
『そのうち分かるわ。』
駐輪場の横の隙間を通って、アパートの建物の横に出た。手入れされていないガタガタの地面に雑草がぼうぼうと生えている。そこには非常階段が有るのみだ。でも反対側はすぐ横を流れる大きな川の土手になっていて、いつ誰に見られるか分からない。
「こんな所で何するんですか?」
おねえさんが俺の体から出てきた。
「君は何をしたい?」
「何って、別に…。」
「ウソついてもムダよ。感情共有出来るって言ったでしょ?私に対する感情、丸出しだったんたけどな。」
「そ、それは…。」
「したいんでしょ、私と。」
「ええ、まあ。」
「じゃあ、しなさいよ。」
「ええ!いいんですか?」
「いいも何も。したいならすればいいじゃない。さ、いらっしゃい。私を好きにしていいのよ。」
あうー、したいしたいしたい!したいに決まってるじゃないか。でもでもでも。
「しょうがないわねえ。脱がしたいんでしょ?この赤いワンピースを。ねえ、脱がして…。」
おねえさんが顔を近づけ、俺の耳元で囁いた。
「私の名はルナ。黒のアルテミスと呼ぶ者もいるわ。どちらも月の女神を表す。さあ、君の輝きで私を照らして…。」
二人の間を風がヒュウと駆け抜け、ルナさんの黒いキャップを吹き飛ばした。栗色の髪がフワリと舞う。視線を奪われた瞬間、いきなり唇を合わされた。
俺は、無我夢中でルナさんを求めた。はぎ取るようにワンピースを脱がせ、下着を引きずり降ろし、全ての肌に指先と舌を這わせた。
茂みの奥に隠れ、通常は絶対に他人に見せることのない部分を俺に弄くり回されながら、ルナさんは喘ぎ声をあげ続け、腰をくねらせた。そして俺は自分をルナさんの入り口へとあてがい、ゆっくりと体重をかけていった。最初は少し抵抗感があったが、入り始めると一気にニュルリと吸い込まれていった。粘り着くような熱い壁に包まれながら。
「あはあ…。」
ルナさんが一段と強い悦びの声を漏らした。俺は彼女の目をじっと見つめ、反応を確かめるようにゆっくりと腰を動かした。
「ああ、ああ、ああっ…。」
やがてルナさんは首を振り、固く目をつぶって眉間にしわを寄せ、半開きの口の端から涎を垂らし始めた。そろそろだろう。
両手で俺を抱き寄せながら自分も腰を降り始めたルナさんの一番奥深いところに、とどめの一撃を全力で突き込んだ。
「あうぅうぅーーー!」
ルナさんはピーン、っと反り返り、白目をむいてガクガク震え始めた。しばらくすると彼女の表情に安らぎが広がり始め、脱力した体はドサっと雑草まみれの地面に崩れ落ちた。
「ふう、えらそうに言って、意外とあっけなかったな。俺はまだ出してないから、第二試合を楽しませてやるか。」
「そっちこそえらそうね。」
ルナさんだ。ワンピースを着ている。
「あ、あれ?なんで服着てるんですか?」
「だって、脱いでないもん。」
「いやいや、さっき…。」
「私を抱いた?」
「ええ。」
「残念。そうじゃないの。記憶改変よ。」
「記憶?」
「そう。憑依力が高まるとね、記憶をいじれるの。例えば、抱いてもいない私を抱いたと記憶している。」
「憑依力…。」
「この能力の事よ。だんだん分かってくるわ。」
「とり憑いて操る、みたいな?」
「まあ、一般的なイメージはそんな感じね。」
なんとおっそろしい。でも、俺にもその能力があるらしい。ああ、なんだか胸の奥がモズモズする。新しい世界が拓けた興奮と不安。
「それにしても非道いですよ。」
「本当に抱いたとしか思えないんだから同じことでしょ。」
「…なんか違う。」
「他にもいろいろ出来るんだけど、今日はここまでにしましょうね。」
「あ、待って。もしかして、俺がここに住んでるのも、ミユキちゃんが隣なのも、何かされたから?」
「さあね。じゃ。」
消えた。
「もしもーし、ルナさーん、中にいるんですかぁ?居たら返事して下さーい。」
返事はない。居ないようだ。なんなんだ、あの人は。