第14話『球技大会会議』-2
「ついでだから『幽醍寮』の人数も教えといて。 1学期中にCが何人か抜けたって聞いてるけど、具体的には何人なわけ?」
「期末試験中のカンニングもありましたから……ええっと、都合4名になるかしら。 あとはBグループにも2、3名欠員がいらっしゃいました。 例年3組さんはちらほら抜けますわね」
「Bはともかく、今年のCでも4人も出してるんだ……ふぅん。 中退が通期いく前に1割超えるって、かなり早いペースじゃん。 ウチらって例年、何だかんだいっても多くて1人しか退寮生だしてないのに、何やってんだか……ウケるわ。 っていうか、ウチら史性寮って優秀だよ。 この分じゃあ本番だって、人数も多くて優秀なウチらが、今年こそヤツらに勝たなきゃ嘘っしょ」
ニヤリ、【A3番】は薄い笑みを浮かべた。 というのも、Bグループ生は全員無事に研修先から帰寮したし、Cグループ生に至っては全員が研修合宿を合格して戻ってきた。 ということは第3週に入り、幸いなことに史性寮は無中退、無欠員。 定数を充足した上で、全員揃った状態になる。 寮対抗の大会を控え、どんな競技があるにせよ、人数が多い方が有利なのは間違いない。 そういう意味で、各学年に欠員がいないことは、史性寮にとって小さくないアドバンテージだ。
「ええ。 ですので、なるべく人数差が影響するようなルールを提案する予定ですの」
【A3番】の言葉を、【A4番】も否定しない。 『学園』にある3つの寮は、それぞれ自治集団の括りにあるため、仲は決して悪くはないのだが、互いに競争心を秘めている。 寮対抗と銘打って為される球技大会は、2学期の『体育祭』と『競歩行進』、3学期の『カルタ会』と『合唱コンクール』に次いで、学園生徒が熱を帯びるイベントだ。 史性寮の上級生といえど例外ではなく、飄々とした風に見えて、【A4番】も内実かなりの負けず嫌いだったりする。
「わたくし何もかも初めてですので、『湿実寮・史性寮・幽醍寮対抗学園球技大会』――長ったらしいですので、これから『球技大会』と呼ばせていただきますわ――がどんな運営か、寮長会議で打ち合わせて参りましたの。 既に御存じの方もいらっしゃると思いますが、ここで改めて披露させていただきます。 その上でルールを校正し――もちろんわたくし達が有利になる方向で――明後日の寮長会議で採決にもってゆきますので、みなさんも知恵をしぼっていただければ幸便ですわ。 宜しくお願い致します」
スルリ、楚々としたお辞儀。 【A4番】は手許から要綱のコピー冊子を取り出し、全員に配った。
要綱の概略は以下の通り。
@ 球技大会は第1グラウンド、第2グラウンド、第3グラウンドを用いる。 それぞれの寮から選抜したCグループ生による競技は第1グラウンド、Bグループ生は第2グラウンド、Aグループ生は第3グラウンドを会場とする。 最終種目の『水球』は、全競技終了ののち、第2プール(深度プール)を会場とする。 『水球』は全寮同時進行での『三つ巴戦』とする。
A 種目、ルールは各年度ごとに決める。 Cグループ戦、Bグループ戦、Aグループ戦を3つの寮で1つずつ分担し、持ち回りで決定する。 ルールの細則は全寮の修正を経て決定する。 ただし最終種目は毎年『水球戦』で統一する。 年度を跨いでの種目重複は認めるが、同一年度での種目重複は認めない。
B 種目は『学園』の体育祭、各部活の正式競技との重複を避けるため、原則として幼年学校時に経験した『球技』を採用する。 その際『学園』の運動部に所属しているものは、当該種目が球技大会にエントリーされた場合、その種目に参加できない。
C 主審は各寮の寮監が担う。 副審は発案寮のAグループ生2名、Bグループ生若干名が担う。 なお審判にあたった寮生は試合の参加は見送る。 最終の『水球戦』のみ、前年度優勝寮監が主審を、他2寮の寮監が副審を担う。
D 試合は3寮が総当たりでおこなう。 試合順は事前に寮長会議において、くじ引きで決定する。 各種目について、合計3試合を終えて1位が10点(同率1位の場合、5点と5点)、2位が6点(同率2位の場合、3点と3点)、3位が4点を得る。
E 総合優勝した寮は、以後1年の間、寮の行事に『学園旗』の使用を認められる。 総合2位の寮は全グラウンドの整備を、総合3位の寮は第2プールの整備を担当し、球技大会の撤収後に帰寮する。
【A5番】や【A3番】のように馴染みのAグループ生もいるが、残りの3名は初見になる。 みな真剣に目を通し、特に【A1番】は何度も最初から最後まで読み返していた。
細かい種目、競技細則は別紙になる。