〈微笑みの裏側〉-15
(噛み…切って…ッ!)
何もかも棄てたはずだった。
もう痛みも怖くないはずだった。
意を決して噛み締めたはずなのに、舌は軽い痛みを感じるだけで、一向に千切れる様子はない……。
『あれあれ〜?もしかしたら死のうとしてるの?』
「!!??」
目の前の少女が舌を噛もうとしているのに、オヤジは少しも焦る様子を見せていない。
それどころか鼻で笑ってもいる。
『自分で自分の舌を噛みきるなんて無理に決まってるじゃない。痛くて直ぐに止めちゃうって』
『でもそれだけ中出しが「嫌」ってコトだよね?こりゃあいっぱい射精してやらないとなあ』
『ほら、このオジサンいっぱいザーメン出しちゃうってさ。早く舌を噛み切らないと大変だよ?』
死をも決意した覚悟を笑われるとは、花恋は思いもしなかった。
ならばと再び力を込めて挑んでみるが、やはり上手く力が入らない。
『感じ過ぎて腰が抜けてるのにさ、そんな力があるワケ無いじゃない?』
「ッ……!!!」
吐き捨てるような口調に、花恋は冷や水を浴びせられたような気持ちになった。
これまで、自分が良かれと思って行動した事は、全て裏目に出ていた。
裕太と裕樹に英明との親密さを見せ付けたのもそうだったし、孝明の甘言に乗ったのもそうだ。
そして出来もしない自殺を図っても、結局は嘲笑われて終わるという落ちまでついた。
『花恋ちゃんが死んじゃう前に……イヒヒッ…ザーメン出しちゃうよぉ?』
「……ッ!!!」
自らの決断は無意味なものしか生み出さないという、つまり浅知恵しか思い浮かばない己の哀しさを、こんな形で思い知らされるとは思わなかった。
汗だくオヤジの腰のリズムも早くなってきているし、その呼吸も上擦ってきている。
その射精に到るカウントダウンを止める手段を、花恋は未だ得られていないままなのだ。
『知らないオジサンにザーメン中出しされたって英明君が聞いたら、どんな顔するかな?た…楽しみだなあ……イヒヒ!ヒッヒヒヒ!』
「う…あッ!?だ、駄目よぉ!!お願いッ!!や…やめてえぇッ!!」
『あれぇ?もう舌を噛むの止めたんだ?』
『あれは「もっと気持ち良くしてくれないと死んじゃうんだから」って意味だったんだよね?花恋ちゃんてホントにツンデレなんだなあ』
オヤジの吐息は喘ぎ声に変わった……それが射精の手前の状態であると、花恋には分かっていた……いや、分かるというだけで、何ら手立てがある訳ではない……。