第13話『寮祭始末』-2
……。
『鞭乞い』、それはM奴隷の嗜みとして、基本中の基本といえる。 自分が犯した罪を御主人様に帳消しにしてもらうため、淫らだろうが浅ましかろうが、お尻を振ったり、持ち物を拡げたり、必死に鞭をねだる。 主人が気まぐれで振るう鞭の数が一定数を超えればよし、越えなければ反省が足らないということで、罪の解消は認められない。 となるとM奴隷としては、是が非でも既定の回数以上に鞭でぶってもらわなくてはいけないわけで……本来それ自体が罰になる鞭打ちだが、こと『鞭乞い』において、『鞭打ち』は何よりの慈悲になる。
両手を頭の後ろに組み、肩幅よりやや広めに足を拡げ、上半身を僅かに前傾させる【A4番】と【A5番】。 やや小柄な【A4番】だが、お尻に関しては【A5番】と同じ大きさだ。 少女から女性に変貌を遂げつつある年齢だけに、締まりがほどけて脂がのり始めた、張りがあるお尻っぷりをしている。 一方【A5番】は、運動で鍛えた筋肉質のお尻だ。 20代に近づいて盛りを迎えつつある性ホルモンと相俟って、たくさんの脂肪をつけた上で、絞りに搾ったお尻といえる。
「さ、始めなさい。 突っ立っているだけじゃ、いつまでたっても何にもなりませんよ」
普段着のまま椅子に腰かけ、鞭をパシパシさせながら寮監が促した。
「「……」」
無言のまま、寮監に背を向けた2人が尻を振り始める。
【A4番】は、ゆっくりと尻をふった。 それは『お尻を振る』という表現がぴったりで、丸みを帯びた楕円軌道を、丁寧に慎重に尻で描く。 右から左、左から右へと方向転換する際は必ず、ビクンビクン、尻を上下に弾ませるため、菊の蕾が御開帳だ。 腰から上半身を極端に前傾させているために腰のくびれが際立って、お尻だけが別の生き物のように蠢いている。
一方で【A5番】の尻振りは、対照的に勢いがあった。 左右に振れる尻は一文字を描き、ピシッピシッと両端で止まる。 がに股をつくった腰ごとグラインドさせ前後に尻を弾ませる時にも前後ろでピタリと静止させるため、勢いの余韻でもってお尻の脂肪がプルンと震える。
しばらく2人がプリプリする様子を眺めてから、
パァンッ。
最初の1薙ぎが【A4番】のお尻を捉えた。 その場で足踏みをするかのように左右の尻肉を交互にせせっていたところを叩かれ、割れ目に沿って真っ赤な痣がお尻に浮かぶ。
「ひとっつ! ありがとうございます!」
くいくい、くいっ。 痛みを紛らわすためだろうか、お尻で小さな円を小刻みに描きながら【A4番】は殊勝な言葉を述べた。 調教だろうと懲罰だろうと、叩かれた回数を報告してから感謝するのは、鞭打ちにおける暗黙の了解だ。
スパァンッ。
間髪入れず反対側の尻肉を捉える一本鞭。
「ふたっつ! ありがとうございます!」
くいっ、くいっ。 交差する赤い痣を庇うように、ぷるるん、お尻が弾んだ。 100発の打擲といえば、どのみちお尻全部が痣でうまって、熟しきった桃というべきか、日焼けしたトマトというべきか、痣だか肌だか分からなくなるまで叩かれるのだから、最終的には少しの痣を庇う意味なんてない。 それはわかっているのだけれど、それでも少しでも痛みを和らげようと身悶えしてしまうのは、鞭の痕が単なる飾りでない証拠だろう。 懸命にお尻で鞭に迎合しつつ悶える【A4番】の隣に鞭が移り、
パァンッ。
「み、みっつッ! ありがとうございまぁすッ!」
3発目は【A5番】の引き締まったお尻に赤線を刻んだ。 鞭に対する感謝の言葉は、【A5番】の方が声が大きい。 【A4番】が比較的平静を保って報告する一方、【A5番】は悲鳴代わりに感謝の言葉を口にしている観がある。 鞭に対しては勿論のこと痛み全般に耐性が少ないため、大声を出さないと理性を保つのが難しいのだ。
スパァンッ。
「よっ……よぉっつ! ありがとうございまぁすッ!」
鞭で打たれた直後の動きも、【A5番】ははなはだしい。 がに股に腰を落とした上で、上半身を左右に捻る。 お尻の左右の肉――如いているなら左尻と右尻――がテンポよく交差するのだが、中央に留まったお尻がその場でキレよく出たり入ったりする様子は、いかにも痛みを我慢している。 要するに【A5番】は激痛を声と運動で相殺し、お尻の振りに昇華する。