第12話『史性寮祭』-1
少女たちが過ごす『学園』は、正式名称を『ニシミヤ第2学園』といった。 宗主国に48ある自治区の1つ『ニシミヤ』の中で2番目に古く設立された、由緒正しい教育施設だ。 『学園』の前にある教育段階を『幼年学校』と呼び、1つの幼年学校から1〜2名のみが『勉学』『体育』『芸術』『道徳』を総合的に判断された上で、『学園』への進学を許可される。
幼年学校生活においては、塾も詰め込み教育も、習い事も通信も存在しない。 誰もが幼年学校の授業と放課後を活用し、もって生まれた能力を鍛える。 その中で『学園』への進学を認められた少女たちは、文句なしに現代教育におけるエリート中のエリートだ。 幼年学校時代は、誰もが高い能力をもち、一芸に秀で、充実した幼年学校生活を送ってきた。 『学園』に入学する以前は、文化祭のクラス出し物から劇の発表に至るまで、様々な機会で前に立つことを選んできた。
今現在、少女たちが置かれている立場は、かつての青春時代、幼年学校時代とは程遠い。 けれど少女たちが完璧に現状に馴致されたかというと、決してそういうわけではない。 胸の奥にくすぶる反抗心、変容してなお持続する自尊心、逆境で鍛えられた向上心――どう呼ぶべきかは定かではないが、兎に角誰もが内心に滾る何かをもっている。 行き場を失った熱意であったとしても、霧消することなく発露の機会を待ち続けている。 ゆえに『史性祭』という『学園』的に異端なイベントが途絶えることなく受け継がれてきた、といえるだろう。
……。
食堂にある机が全て一か所に固められ、机の上に工作用の天板が並べば即席のステージが完成する。 ステージに向かって前列にBグループ生が、後列にCグループ生が行儀よく並ぶ。 誰もが『土下座』や『がに股』といった過度に股間を強調する常の姿勢と異なって、体育座りや崩し膝といった自然体だ。 全裸や恥部を強調した格好が日常な学園にあって、服装は全員が白い下着の上下に統一している。
「続きましては、ええっと、チーム名『さっちゃんズ』によるダンスだね。 振付、BGM含め、全部オリジナルの生音源なところがイカすなぁ。 ということで、音楽も含めて楽しんでいこう。 では『さっちゃんズ』のみんな、お願いしまーす」
ステージの上では、【A5番】の司会進行で1組ずつ有志による演目が進んでいた。 ダンスといえば、学園で要求されることが多い項目の1つだ。 オマンコを拡げながら腰をふったり、逆立ち開脚で陰唇を左右に伸ばしたり、羞恥心を堪えながら踊った回数は両手両足の指を足しても到底届かない。 一方、少女たちが見守るステージ上で踊っているのは、懐かしい、いわゆる『ダンスチーム風』の振付けだった。 エレキギター2台とセットが奏でるビートにのって、キレがあるポージングを披露する。 素直に『カッコいい』と思わせてくれる踊りに対し、セットの乱打にあわせて最後のポーズを決めたところで拍手と黄色い喝采が、客席一面で巻き起こる。
「お疲れさま〜」
「はぁっ、はぁっ……あ、ありがとうございます!」
「踊り終わったばかりであれだけど、一言コメントいただくね。 いやー、それにしてもサニーちゃん、最初から最後まで踊りっぱなしですごかったよー。 どのくらい練習してきたの?」
「はぁはぁ……えっと、ちゃんと合わせたのはこの2日です。 サンミが研修から帰ってきたのが一昨日だったんで」
「たった2日でよくここまで仕上げたね。 正直時間足らなかったでしょ。 もしかしてヤバイって思ってたりした?」
「……いえ、サンミだったら何も言わなくても合わせてくれるし、実際今日もあたしの方が息があがっちゃって……そんなことちっとも思いませんでした」
「ふーん、信頼してるんだねぇ……でも実際、2人ともキレキレでかっこよかった。 2人とも寮祭のステージは初めてだよね。 踊ってみた感想、聞かせてくれるかな」
「あの……あたしもサンミも、昔はこういう場で何度も踊ってて、その時は拍手も応援も当たり前って思ってたんですけど……今日はもう、感謝しかないです。 あの、みんなが楽しんでくれてるのが凄く伝わって、それで、あたし達もなんか楽しくなっちゃって……上手くいえませんけど、ありがとうございましたっ!」
「こちらこそ、素敵なダンスをありがとう。 みんなからも、もう一度2人に盛大な拍手をお願いしま〜す」
パチパチパチ、大きな拍手に見送られて、2人は何度も頭を下げながらステージの袖に下がる。 2人とも汗びっしょりで、白の下着が肌にへばりつき、乳首もオマンコも丸見えだ。 けれど、そんな自分の恰好に一切頓着することなく、満面の笑顔でステージを下りると、ぐるりと回って客席へと戻っていった。
フッ、ステージ真上にセットされた照明が消える。
「次は、さっき演奏してくれたバンドにボーカルが加わって、2曲歌ってくれるみたいだよ。 バンド名『即席カップル』、歌うのはBのサニーちゃんです。 よろしくどうぞ〜」
パッ、ものの10秒ほどの暗闇を経て照明が灯った直後、ドラムが烈しくロールを叩く。 ステージの縁ではマイクを握った【B32番】が、ヘッドバンクのパフォーマンス付でハードなカバーをメタリックだ。 曲を知っていようと知っていまいと、とりあえず騒げとばかりに寮生たちが盛り上がり、下着姿のバンド一同、ダダダッ、ドドドッ、遠慮なしに大音量で駆け抜ける――。