第12話『史性寮祭』-3
「私は今年からAに進級して、正直こんなイベント面倒だなぁって思ってた。 せっかく毎日割り切って、自分はオマンコなんだって言い聞かせてるのに、ちょっとの間だけ人間に戻ってどうなるのって……そんな風に思ってる子も、みんなの中にいるんじゃないかな。 いや、いて普通だと思うし、全然それでいいし、少なくとも私とは気が合うと思うよ。 ただ、いざやる側に回ってみたら……すごく意味があってビックリした。 いやホント、寮祭って大切だわ。 他の寮はやってないみたいだけど、それだけで、この寮に入れてラッキーだったなって思うよ。 つまり……要するに、私がいいたいのは、来年も続けてねってこと! 頑張って卒業して、私の分のA席は、責任もって譲るからさ……って、無事に卒業してから言えって話だよね。 ごめんねアコ。 アコをディするつもりじゃないのだけは分かってね? とにかく後輩のみなさん、今日はありがと!」
隣で口を尖らせる【A5番】――Aグループから卒業できず、史性寮の最年長になる――の肩をとって付けたようにポンポンし、【A2番】はみんなにブンブン手をふった。
「ふ〜〜……何言おうかなぁ……。 まぁねぇ、先輩として金言の1つでも残したいところなんだけど……これでウチらが卒業するわけじゃないし、あんまりカッコつけても意味ないじゃん。 そういうのは最後の最後にとっときたいから、とりあえずみんな、また明日からオマンコだらけの毎日だけど、生きてりゃきっといいことあるさ。 今日はお疲れさんでした」
そういうと【A3番】は肩を竦め、そそくさと隣にマイクを回す。
「有志のみなさん、素敵なパフォーマンス、ありがとうございました。 ステージに立たなかった方も、上手に雰囲気をつくってくださって、わたくしたち一同感謝していますわ。 おかげで素敵な1日になりました。 今日はお祭りですから、無礼講ということで、わたくしたちも本音を喋っても許されますから……ひとことだけ。 みなさんのこと、大好きです」
左右に控える同級生に、また眼前にしゃがむ下級生に、ニッコリほほ笑む【A4番】。
「本来でしたら寮長のわたくしが最後にご挨拶するところですけれど、今日のために一番汗をかいてくれた方に、最後の〆をお願いしたいと思いますの。 ということでアコさん、よろしくお願いいたします」
最後にマイクを受け取ったのは、ずっと司会進行で場の空気をつくった【A5番】だった。
「あー……どうもです。 拙い司会だったと思うけど、せいいっぱいやらせて貰いました。 みなさんが盛り上げてくれたから、どうにか最後まで引っ張れたと思ってます。 ありがとね」
ペコリ。 かるーく会釈。
「アニーにはディスられちゃったし、アミにもやられちゃった感があるんだけど、今年が4回目のAグループで、寮祭しきるのも4回目で……毎回緊張するし、終わったら色々思うことがある。 今まではなるべく言わないようにして、『沈黙は金』なんてカッコつけてたんだけど――今年は私が〆だそうだから、思い切って言っちゃうことにする。 ちょっと長いけど最後まで聞いてよね」
そういって【A5番】はコホンと咳払いをし、何度か大きく息をすい呼吸を整える。
「幼年学校を卒業して『学園』に来て……死にたくなったし、死のうと思ってた。 先輩は最悪だし、担任は鬼だし、寮監はドSの変態だし……ちなみに私が入寮したのって、9号寮監と同じなんだよ。 奇遇とういうか何というか……ともかく、仮に『学園』を卒業したとしても、良い事なんて無さ気な気がして、どうしようもなかったかな。 まあ、死ねなかったけど。 多分みんなも似たようなもんだと思うけど、私がB・Cだったころよりはしっかりしているみたいだから、割り切れてる子も多いのかな……どうなんだろうね」
静かに聞いている寮生たちの真剣な目は、【A5番】の問いかけを肯定していた。
「でも、Bグループに進級して、色々研修したりするうちに、思い違いもみつかった。 立場が変わると見えてくるものってたくさんあるんだよ。 それはAもおんなじで、多分今、寮の中で私たちが一番色んなものが見えてる。 Cの間は『オマンコの付属品』、Bは『オマンコの操縦役』で、じゃあAはっていうと『オマンコの奉仕者』……かなぁ。 段階を踏んでさ、モノからヒトへ移行してるのは確かだと思う。 オマンコと切り離せないのはしょうがないとして、CやBの期間に経験したことは無駄じゃない。 ちゃんと次に続いてるわけ。 ……今現在Cにいる子からしたら信じられないでしょ? でも、ちゃんと、間違いなく続いてる。 無意味なことなんて1つもない」
視線は前に。 顔を俯けることなく【A5番】は話し続けた。
「きっと、色んなことが見えてくるよ。 これまでもそうだったでしょ? これからも同じことだよね。 知れば知るほど、納得できる部分も増えてくる。 具体的に何が納得かっていわれたら、うーん、こればっかりは実体験なしには分かってもらえないんだろうけど……でも、黙ってるのはズルいし、信じてもらえるかどうかは別にても……言った方がいいだろうなぁ。 あのね、一応私の経験でいうとね……私の先輩や、ここにいる4人のAグループの同期、寮監の9号教官も含めた『学園』の教官、研修先でお世話になった社会人の人達……あくまでも多分でしかなくて……証明しろっていわれても無理なんだけど――」
あくまでも丁寧な語り口で、時折考え、言葉を選ぶ。
「――全員が『いい人』。 悪い人なんて誰もいない」
シーン……。 ステージの下からは、しわぶき1つ聞こえない。 当惑したり、眉を顰めたり、真顔だったりするものを含め、みな真剣に聞いている。