忘我3-4
岩井の胸に顔を押し当て、丸くなっていた。抱いている岩井の手が、柔肌を確認するかのような動きをする。敏感な体はそれだけで反応してしまう。胸を強く押されたようなため息で、岩井の胸毛が揺れた。
部屋に入るとマジックミラー越しに、向こうの部屋が一瞬視界に入る。すぐに目を背けた。
ソファーはマジックミラーに向いているが、その前に大きなテーブルがある。その向こうにもソファーがあり、やはり、マジックミラーを向いているのだ。この部屋は向こう側をのぞくための部屋だと知らされた。のぞかれる部屋で毎日、岩井とセックスをしているのだ。今日も。
手前のソファーに腰を下ろした。膝の上に横抱きにしたまま、手のひらで肩や脇腹を愛撫する。ウィークポイントをそれながら。それでも、波のような官能が押し寄せる。
「あぁ……ん」
感じていることを訴えた。お尻の肉に密着している鋼鉄のようなペニスに意識が集中する。
「この体は、たとえ夫の目の前だろうと、ワシのマラでいくらでも気をやる」
太ももを撫でていた手が、ワンピースの中に入ってきた。
パンティ越しに性器をまさぐられると、奈津子はアアッっと仰け反り、岩井の腕をつかんだ。
「そのような体にワシが変えてしまったのだ」
性器を弄くられるほど、脳内が霞んでいく。
「あん……あぁん……」
指先は的確に急所とらえている。
「薄布を通してここで呼吸しているのが分かる。少しいじくるだけで、こんなにヌルつくようになった。尻の穴まで滴るくらいにのう」
他に人がいるわけでもないのに、誰に話しているのだろうと思ったが、そんな疑問は快感に押し流されてしまった。
奈津子の腰を持ち上げ、やおらパンティを下ろしていく。ふんどしのわきから、ペニスを引き出し、丸出しにしたお尻の中に差し込んでいく。
「この形で交わるのは初めてかもしれん」
岩井のかすれたような声のあと、「もう、やめてくれ」と、別の声が聞こえた。弱々しいが男の声は奈津子の耳に届いた。
胃の腑が竦み上がった。
奈津子が協力的だったせいもあり、濡れそぼった性器で亀頭を含んだ。ペニスで膣口が押し広げられる。頭の中が白くなる。
「はぅッ」
岩井は奈津子の体の重みを利用して深々と挿入した。
のけぞる体を強く抱きしめられた。頬や耳に厚い唇を滑らせながら、岩井の、かすかな呻き声が聞こえた。他に意識がなかったら、奈津子はひと突きで達していたに違いない。
――この部屋に夫がいる!
全身に鳥肌が立った。
体を揺さぶられると、絶望的な状況にも関わらず、体が反応してしまう。
「こんなこと、あり得ないッ……アアッ……堪忍、してッ」
心と体が別々であることは、岩井に抱かれるごと、知ることになる。多淫な女であることも知る。
経験のない挿入角度は情欲をそそった。
「だめ……だめ……」
奈津子の耳たぶを口の中に入れ、巨根で膣壁を練り込みながら、岩井は荒い息を漏らしていた。
夫の目の前でその妻を犯すといった鬼畜的行為は、あの岩井が陶酔するほどの快感をもたらした。
田楽刺しにされた状態で逃れるすべはない。
ガサガサと音が聞こえた。
視線を向けることなどできない。
こちらへ向かってくるのを感じて、身が竦む。
岩井が何かをこらえるように、フーッと息を吐く。奈津子には分かった。律動を止めたのは射精こらえるためだ。できるだけペニスから意識を遠ざけ、引きずる音へ、おずおずと視線を向けた。
「あなた!」「奈津子」
同時だった。
義雄が手を伸ばし、床を這うようにして、こちらに向かっていた。憔悴しきった義雄の表情に、胸が締め付けられる。岩井に何か薬のようなものを盛られたに違いない。
渾身の力を振り絞り義雄は立ち上がる。
奇声をあげて、向かってきた。
突然視界が真っ暗になった。岩井に目をふさがれたのだ。体がズンと揺さぶられた。ペニスが強く内臓をえぐった。アアッと奈津子の首がのけぞる。
「ごふッ」
同時に義雄のうめき声と何かが倒れるような大きな音。続いてカランカランと瓶の転がるような音がした。
目隠しが解かれると、テーブルの向こうに義雄が倒れているのが見えた。呻き声も聞こえる。岩井が放り投げたワインの瓶で義雄を殴打したのだ。
「軽く当てただけだ。心配しなくていい。そら、奈津子」
再び奈津子の頬を引き寄せ、髪の中に唇を押し当て、何事もなかったかのように律動を開始した。
「あッ……だ、だめッ……許して、くださいッ……あ、あなたッ」
巨根の威力はこの体がいやというほど知っている。