麗花 何処に何をされても私は屈しない-7
「罠に掛けられたのは私の方だったんだね。」
「ええ、そうです。」
温かく柔らかい肌を俺の胸に押し付けながら、麗花がイタズラっぽい目で答えた。
「やっぱり分かっていたんですね。」
「まあ、途中で気づいたんだけどね、きみの意図に。いや、策略と言うべきかな。」
先生と生徒の関係に戻ったかの様に、真面目な口調で俺は解説した。
「いいかね、姫野くん。望まずに与えられる快感に対して、屈しまい、と耐えれば耐えるほどカラダは疼き、刺激を無視しようとすれば逆に感度が高まっていく。言い換えれば、より強い快感と深い悦びを得るためには、敢えて自分を追い込めばいいんだよ、そういう状況に。抵抗を放棄し、好き放題にヤられまくりながら、本当は感じてしまっているのに素知らぬ素振りを続け、もっと欲しく堪らないのにじっとガマンする。解放されない欲情は蓄積され続け、満たされない疼きは膨張していく。かくして高密度かつ大質量に成熟した法悦の果実は、ついに理性の枝からもげ落ち、身震いしながら大地に弾ける。その時、灼熱の快感が下腹部をジンジンと焦がし、怒涛のようにカラダを駆け巡って痺れさせ、悦楽で縛り上げる。」
麗花は苦笑いしている。
「先生、難しくてよく分かりませーん。」
俺は片眉を上げて渋い顔を作り、
「ま、一言でいうと、ガマンすればするほど後でキモチイイ、ってことさ。弓は、大きく引けば引くほど解放されたときに強い力で飛んでいくのと同じ理屈。」
俺の胸に掛かる麗花の長い黒髪を撫でた。
「最初からそう言ってよ…。学者だからって、カッコつけてないで。」
彼女の頭を抱き寄せると、シャンプーと汗の匂いが溶け合い、鼻孔をくすぐった。
「それにしても、どうしてこんなヤバい事を思いついたんだい?麗花。」
彼女は俺の胸に頬を擦り付けながら答えた。
「先生も言ったように、私を欲しがる男なんていくらでも居る。それだけ価値のあるオンナが、普通の快楽で満足していていいわけ無いじゃない。」
「麗しきお嬢様の背徳の遊戯、ってか。」
「ノーリスク・ノーリターンじゃ、人生つまらないわ。」
二人は見つめ合い、少しイケナイ微笑みを交わした。