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イノセント・ラブドール
【SM 官能小説】

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イノセント・ラブドール-6

 彼がマイコさんにとってどういう《男》なのか察しはついた。ぼくより背が高く、日焼けし
た堅個なからだ、ひろい肩とがっしりとせりだした胸郭、艶やかな髪の毛、深い翳りのある眼
光、美しく並んだ白い歯、鼻筋の高く巧緻で端正な顔つき。すべてがぼくと比べものにならな
かった。ぼくは嫉妬と焦燥、そして屈辱という苦痛に生まれて初めて身震いした。彼は隣街に
ある音楽大学の学生でぼくの高校に教育実習生として音楽の授業に来ていた。

 あの日の放課後、音楽室には誰もいないと思って廊下を通り過ぎようとしたとき、何かの気
配がぼくを音楽室の扉のすきまに釘づけにした。あの男がマイコさんとふたりきりで彼女にピ
アノの手ほどきをしていたのだ。彼の長い指が鍵盤の上にあるマイコさんの白く細い指に確か
に触れていた。扉のすきまから洩れてくるふたりの微かな笑い声…。そしてマイコさんが彼の
前で弾いたラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲第十八変奏曲。

ゆるやかな旋律はぼくの感傷を少しずつ、残酷に切り裂いていった。ぼくは彼に対する嫉妬と
いう苦痛で咽喉元が絞められていくのを感じた。なぜ…なぜ、あの男がマイコさんといっしょ
に存在しているのか。言葉を繰り返すほどになぜかぼくの中のマイコさんの《不在》に咽喉が
黄褐色に渇き、胸の鼓動は締めつけられた。荒れた波のように襲ってくる眩暈にぼくはこれま
でとは違った狂気のような感傷をいだいた。


そしてあの夜の出来事…目の前の憧憬をぼくが許すはずがなかった…。


ふたりのゆるされない光景をぼくは港の公園の樹木の陰からじっと見ていた。彼女が家を出で
こんな時間に電車に乗り、この場所にやってくるまで、ぼくはまるで彼女に誘導されるように
あとをつけてきたのだ。

夜の暗闇の仄かな街灯の灯りでもぼくにはすべてが見えていた。彼はマイコさんの唇を《ぼく
から奪っていた》のだ。ふたりの頬と頬が近づき、ふたりの影が重なり、ふたりが何か同一の
生き物のように絡み合う音がした。男の手がマイコさんの腰をまさぐり、彼女のふくよかな胸
が男の堅個な胸郭に押しつぶされるように歪み、短いスカートからのぞいた太腿の白い肌を
男の片方の手が這うと、彼女の腿肌が微かに強ばっていた。

マイコさんの薄く開いたピンク色のきれいな唇のあいだに真っ白な歯が初々しくのぞいていた。
彼は彼女の顔を引き寄せるようにして唇を重ねた。微熱を含んだ彼女の甘い吐息が今にもぼく
の鼻腔をゆるやかにくすぐるようだった。ぼくは彼とマイコさんが唇を重ねている姿に、まる
で自分のからだの奥をナイフで裂かれるような鋭い痛みを感じたのだった。

彼はマイコさんの肩を強く抱きよせ、貪るように彼女の唇を啄み、舌先を差し入れていく。
湿った唇の内側をなぞり、並んだ歯のすき間に舌をわずかに忍ばせる。強く密着した唇にはお
互いの体温とともに性の匂いが混ざり合っているようだった。

彼女の唇のすき間が少しずつ開き、彼の舌先を受け入れると、口腔の中でふたりの舌が、互い
を求め合うように密やかに戯れ始める。唾液がねっとりと絡み、彼女の舌を彼はまるで性器を
求めるように捏ねまわした。

湿りきった音が暗闇の中で糸を引くように響き続けていた。ふたりが互いの身体をまさぐり合
う音…。彼の手が優雅にマイコさんのからだの輪郭をなぞり、彼女はのけ反りながら男に身を
ゆだねていた。



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