ガリガル!!-3
嗚呼、二日酔いです。放課後になっても治りません。頭が胃が痛い…。テンションがどこまでも下がっていきます。クラスでは二日酔いを思い切り馬鹿にされ、笑い者にされ、恥さらしとまで言われました。柚子って可哀想じゃないですか?部活も引退したし、今日は素直に家に帰ることにします。愛子も葉月も由芽もそれぞれ用事があるらしく、一人で帰るのは久しぶりです。
寂しいもんですね、一人って…。
「あっ、ゲロ子ちゃんだっ!」
そう、ゲロ子…ん?
「へ?」
「やっぱゲロ子ちゃんじゃん!昨日あれから大丈夫だった?」
柚子の目の前に見知らぬ高校生が立っています。襟足の長い栗色の髪、無邪気な童顔の顔、それには似合わない高い背丈、がっしりした体型、格好よく着くずした制服…。
「誰?」
こんなチャラチャラした人、柚子は知りません。すると、チャラ男は「え〜」と不満の声を上げました。
「昨日、合コンしたでしょ?オレのこと覚えてない?」
「いたっけ?」
柚子は男性陣のことを何一つ覚えていません。名前どころか顔もさっぱりです。「ちょっと!顔くらい覚えててよ!!オレ、成田 千晴、18歳!!」
「そっ…」
柚子はチャラ男を無視して歩き出しました。さっきも言ったように、今めちゃめちゃテンション低いのです。それと反比例にチャラ男のテンションは急上昇…ついていけません。
「え、ちょっと待ってよ!!ゲロ子ちゃん…じゃなく柚子ちゃん!!」
柚子はピクッと反応して、足を止めました。
「何でチャラ男が名前知ってるのっ!?」
「千晴っ。だって昨日ブチ切れた時、自分のこと柚子って言ってたじゃん」
あぁ!柚子は自分を名前で呼びます。これは小さい頃からで、治そうにも治りません。妹も自分を名前で読んでいます。
「…ほぅ。あ…ヤバイ…頭痛い…」
急に二日酔いの頭痛が悪化しました。非常にピンチです。目眩もします…。
「わっ!!柚子ちゃん?柚子ちゃーん!!」
はぁ〜…気持ち良い。チャラ男に近くのベンチまで運んでもらった柚子は今、目の上に冷たいタオルを乗せています。
「チャラ男のくせになかなかやるじゃん」
チャラ男が隣にいるのは気配でわかります。
「だから千晴だって。しかも、オレチャラくない」
「嘘だぁ。チャラ男の髪型ホストみたいだよ、髪の色とか」
「色は元々だよ!髪型は…オレ童顔だから、少しでも格好良くみせるためで。柔道してんのもそのせいだよ」
「柔道!?見えない…」
「だから、やってんだってば…」
なるほど?これで童顔のくせにがっしりした体型の説明が付きます。
「ん?」
泣き声が聞こえます。子供の泣き声が…。それはどんどん近付いて来ます。
タオルを目から外すと丁度目の前を、5歳くらいの男の子が泣きながら歩いていました。
「迷子…かな」
チャラ男がボソッと呟きました。男の子を通り過ぎる人たちは怪訝そうな顔で、男の子を睨んでいきます。サラリーマン風のおじさん、主婦、女子高生の軍団、高校生カップル…誰一人として、男の子に近付こうとしません。小さく、うるさい、と言いながら歩いていきます。柚子はタオルを握ったままその子に駆け寄りました。
「どうしたぁ?何で泣いてるの?」
しゃがんで男の子の目線で話し掛けます。男の子はしゃくり上げながら「ママ…いなくなっちゃった」と言いました。