第4話『変顔展示週間』-2
……。
「変顔……ねぇ……顔芸なんてのがメインテーマなプログラムもあるっていうのが、そもそもビックリだよ」
「だいたい『笑い』をとるって言っても、意外なところで『変顔』がでるから笑えるんだって。 『変顔』が来るってわかってて、その上でウチらを笑わせるような顔をしろっていうんなら、ちょっとハードル高すぎなんじゃない? アイとかさ、どんな顔したって笑ってくれなさそうだし」
といって【A1番】に話を降る【A5番】。
「あ、あたしですか? そ、そんなことないと思います。 面白ければ笑いますよ……というか、ある意味、あたし達も大変だと思います。 面白くない顔でも笑ってあげなきゃいけないシーンとか、逆に本当に面白くても面子的に笑っちゃいけないシーンとか、色々でてくるんじゃないでしょうか」
「個人的に新入生の変な顔、見てみたい気がしないこともない……なーんて。 つうのトコの後輩とか、今年は綺麗どこが揃ってるからさ、変顔コンテストっていうなら見栄えしそうじゃん」
前回の体罰プログラムに比べると、5人の反応は柔らかだった。 ところが、
「……ところで、1人で5通りの変顔を用意するとして、Cが35人いるってことは、175通りになりますわ。 そんなにたくさん、被らずに変な顔なんてできるものかしら?」
寮長の一言にAグループ生たちは目を見合わせた。 冷静に考えれば、変な顔などそうそうつくれるわけがない気がするし、変な顔のパターンに持ち合わせがあるわけでもない。
「まあ……そりゃ、多少はかぶっちゃうでしょうね」
「そもそも1人で5通りつくるっていう時点で結構厳しい気がするな」
「そう? 5通りくらいなら全然余裕じゃん?」
「ならやってみせてよ。 5通り、全部違うパターンで、だよ」
「ええっ!? ウチがすんの?」
「他に誰がいんのさ。 余裕なんでしょ、ほら、さっさと見せなさいよ」
「絶対ヤだ。 いいじゃん、変顔するのはアコじゃないんだから。 悩むのはCに任せりゃいいんだって。 相部屋のBもいるんだし、なんとかするって」
気楽にのたまうAグループ生がいる一方、眉をしかめるAグループ生もいる。
「そういうのは、ちょっぴり無責任だとあたしは思います。 あたし達が出来ないことを後輩にさせるっていうのは」
「まーたアイちゃんの人道的見地が始まったよ……だから、ウチらだってその気になれば出来るって」
「そうですか? あたし、せいぜいこんな顔しか出来ません」
グイ。
そういって【A1番】は自分の鼻に指を2本突っ込んで見せた。 真面目に会話する輪の中に突然現れた美少女の豚顔……普段なら絶対におどけたりしない【A1番】が見せた豚鼻だ。 一瞬の沈黙後、
「ぷふっ!」「ちょっ、は、反則……!」「な、なにそれウける!」
かしましい歓声があがった。
「……ただ鼻に指をつっこんだだけなんですけど」
仏頂面になって膨れる【A1番】。 豚の鼻とふくれっ面の組み合わせは、間が抜けていてバカっぽくもあり――ちょっぴり可愛らしくもあった。 そんな【A1番】をますます笑う同級生に苦笑し、隣で唯一静かな寮長に話しかける。
「しょうがない人たちですね……ねぇ寮長、そう思いません――……あ、あれ?」
「ぷ……ぷふっ……っ」
寮長も口を押えてうつむいたまま、肩を小刻みに震わせていた。 憮然とする【A1番】を他所に、しばらく寮長室には押し殺した笑いが続いたのだった。