忘我2-4
「ふぅん、ふぅん……」と息を吐き、筋肉質の肩に甘えるように顔をこすりつける。しわを伸ばすように愛撫していた指先が縫うように入ってくる。深い位置をこね回すとヌルリと引き出し、傷を癒すように表面を撫でる。それを繰り返されると腰から背筋に電流が走った。
「あ、あなたッ」
夫の名を無意識のうちに叫んでいた。
そのとき、微妙な筋肉の動きを感じた。岩井の感情が変化したのだ。二穴責めは長くはなかった。
ぐるりと向きを変え、ベッドに倒される瞬間、蕩けそうな自分の顔が鏡に映った。
両足が肩に担がれる。とどめを刺すとき、また短時間で射精したいときにこの体位になる。
体内の空気と共に、体の中から巨大な異物がズルッと抜き出される。陰茎が引っかかり腰ごと持ち上がる。見下ろす岩井は浅い位置で二、三回抜き差しした。続けて仁王のような顔で腰を跳ね、一気にペニスを叩き込んだ。
「おふぅッ」
脳内が閃光に包まれる。お腹の底から声が漏れた。口から飛んだ唾液が岩井の顔を濡らした。惨めに体を丸められているので獰猛な顔を見る以外にない。岩井の顔が振動していた。悶えながらきっと歯を剥きだしているに違いない。それでもいい、岩井に顔を見られたい。
いつ撮られたのか分からないが、このベッドの上でセックスしている映像を見せることがある。服を着たまま膝の上で前戯を受けているときが多かった。
丹念なフェラチオで唾液まみれになっていくペニス、クリニングスでぐっしょり濡れる性器、精液まみれの口中、快楽の坩堝へと墜ちていく女体、快感にのたうつ四肢、毛穴までくっきり映っている結合部のアップ、肉でできたパッキンのように、勃起したペニスをピッチリとくわえ込んでいる映像、長時間の摩擦により生まれた白濁にべっとり濡れる陰毛、アヌスをまさぐり続ける太い指、耳をふさぎたくなるような自分の悶え声、射精を終え半立ち状態のペニスが膣から抜け落ちる映像と続く……。
岩井の膝の上で服の上から胸を揉まれ、いつしか快感に打ち震えている。
――わたしの体には淫らな血が流れている。
ヌチャッ、ヌチャッ、ヌチャッ……。
顔の横に両手を突き、腕立て伏せのように腰をぶつける。男と女のこすれ合う音が轟いていた。
抜き差しのたびに巨大な陰茎が引っかかる感触が大きな快感を生んだ。いやでも声が出てしまう。
「い、いいッ……あはん、あはん……」
両手を伸ばして首にぶら下がると、岩井の振動を感じる。
グチュッ、グチュッ、ヌチャッ、グチャ……。
「あぁん、いい……先生の、いいッ……はぁん」
ボキャブラリのない悦びの言葉を並び立てた。
岩井の手が頬に触れ、そのまま顔を横に向けさせる。自分のだらしない顔が鏡に映った。田倉にも見せたことがない表情。
グボッ、グボッ、グボッ……。
幹のようなペニスが体内をズブズブと貫く。鏡に映る連結部は淫らな有様に違いない。響き渡る淫音が水っぽく変化していった。
「もう、我慢できないッ」
快感が全身を貫いた。岩井が腰を押し当てたまま動きを止めた。脳内の白い閃光に意識が飛びそうだった。失神しないのは、岩井のにおいのせいだ。
オーガズムに震える両脚を肩から下ろした。近くにあった岩井の顔が離れて霞む。強烈なにおいも同時に薄れていった。
シーツで背がこすれた。体が回転している。まるで体内に収まっているペニスによって体を動かされているようだ。結合部を鏡に向けたのだ。
重い体が覆い被さってきた。鎧のような分厚い腰を受け入れるには両脚を水平に開く必要がある。岩井はまだ果てていない。膣の収縮を確認しただけだろう。
オーガズムのときに膣がキュッと収縮らしい。それがとてもいいと、田倉が毎回褒めていたのを、遙か過去のことのように思う。狂ったように逢瀬を重ねた田倉の体を――ペニスを、もう忘れかけていた。