第1話-3
明らかに様子がおかしい沙耶香を不審がるヨウコ。
それ以上気取られぬよう取り繕いながら、沙耶香はその場を後にする。
ぐにゃーっと周囲が歪むような錯覚に襲われながら目的地を目指す。
そして猪熊に指定された指導室に入るときも、現実感が希薄で足がふらついていた。
入るなり、正面に座っている猪熊を問い詰める。
「な、なんであれがっ! どこで手に入れたっ!?」
勝利者の笑みを浮かべながら答える猪熊。
「元は竹本の所持品検査でな……。おまえも友達は選んだほうがいいぞ」
竹本とはシンジのことだ。
恐らく動画が録画されていたのだが、その後の経緯で使用されることはなかったのだろう。
場合によると、既に仲間だと思っている沙耶香に返しに来たのかもしれない。
そんな経緯は今はいい。
重要なのは、目の前の男に握られているという事実である。
「よこせよっ!」
誰にも見せられない内容に鬼気迫る。
しかし返ってきたのはなんの手ごたえもない回答。
「んーーーー。まぁ、可愛い生徒のことでもあるし考えないでもない。」
わざとらしく考え込む様を見せているその目に湛えているのは少女がよく見知ったものであった。
飢えた男が渇望している光。
沙耶香はうすうす何を要求してくるのかわかりつつあった。
「お前が素直にセンセイの個人指導を受けるというなら……。保健体育がいいか?」
既に欲情を隠してもいない卑劣な男。
嫌悪感を露にする沙耶香。
「それが教師のやることかよ……」
オスのくだらなさはこれまでの経験で身に染みている。
不良と目されている自分には頼れる存在もない。
もうある程度は覚悟せざるを得ないことを理解して、確実に動画を回収する算段を立てる。
「……1回だけだ。それでデータは渡せよ」
「お前みたいな問題児に1回で指導が終わるわけないだろう。まーでも数回受けて改心が見られれば返してやろう」
何の保障も無い内容に気色ばむ。
しかし今は他に手がないことは明らかであった。
今は身の毛もよだつ男臭い教師の淫行に付き合いつつ、隙を見て取り返すことを考えるしかない。
相手も利用価値があるうちはリスクも考え、コピーしてばら撒くような真似はしまい。
それでも葛藤はしばらく続いた。
にやにや眺めている破廉恥漢。
こぶしを握り締め、唇を噛んで睨み付ける傷ものの少女。
……やがて運命を受け入れた。